だがその後6月に中国最大のソーシャルメディアアプリ微信(ウェイシン)に、ある記事が載った。これは中国の防衛関連企業「北京藍徳信息科技」が投稿した記事で、一般公開されている。

記事が主に扱っているのは、地対艦ミサイルを運用する台湾軍の機動部隊が5月の演習時にどう動いたか。これらの機動部隊は「海鋒大隊」に所属している。

海鋒大隊は台湾製の亜音速ミサイル「雄風II型」と超音速ミサイル「雄風III型」を運用。台湾の海岸に押し寄せてくる中国の侵攻部隊を撃破する最終防衛を担うことになる。アメリカ製の対艦ミサイル・ハープーンも運用する予定だが、納入が遅れに遅れている。

問題の記事は、海鋒大隊の12の基地の地理的位置を正確に伝えている。恒久的なミサイル発射基地は敵に見つかりやすい。台湾軍も自軍の基地が中国軍に知られていることを想定して、機動部隊を使うことにしたのだ。機動部隊は台湾各地に散らばり中国軍の上陸部隊を壊滅させつつ、飛来するミサイルを巧みにかわして任務を全うするはずだ。少なくとも理論上は。

海鋒大隊所属の機動部隊は通常、3〜4台のミサイル発射台と護衛のための数台の支援車両で構成される。台湾島内を自在に動き回り、発射地点で素早く準備し、中国軍の艦隊にミサイルを撃ち込み、反撃されないうちにさっさとその場を去る。「シュート・アンド・スクート(撃って逃げる)」と呼ばれる戦術だ。

政府と軍の「自殺行為」

だが問題の記事を投稿した企業は5月23日、台湾の機動部隊の数カ所の発射地点を正確に突き止めていた。台湾北西部の海辺のリゾート・宜蘭のホテルの駐車場や台湾第2の都市・台中の港湾近くの水族館の駐車場、さらには台湾最南端の恒春半島に位置する墾丁国家公園内の駐車場に設けられた発射地点などだ。

この中国企業は台湾軍にスパイを潜入させていたわけでも、最先端のハッキング技術を使ったわけでもない。台湾の人々(ジャーナリストもいるが、多くは一般市民)が移動中の機動部隊を見つけ、スマホなどで撮影し、ソーシャルメディアに投稿したのだ。

台湾の日刊紙・聯合報の記者、ジョンソン・リウは「軍の車列を見かけた」という地元の人の話を聞いて発射地点を突き止めたという。「国防部(国防省)は何も教えない。だが過去の演習時にミサイル部隊が駐車場を使うのを見たので、どこから撃つかすぐに見当が付いた」

台湾のメディアやネット民は正確な場所までは示していないが、中国側が入手した画像を基にグーグル・マップなどを使って調べれば、簡単に発射地点が分かる。この中国企業は機動部隊の移動ルートや移動にかかった時間まで割り出していた。