「普通」より上だけど「とても」でもない
【ふかわ】「おもしろかったです」では足りない何かがあるのでしょうか。あれって「普通に」って言っておきながら、普通より上のレベルのときなんですよね。「とても」でもない。「普通に」が別のステージ、新たなフェーズに入ったような気がします。
【川添】あれは「おいしくないかも」「おもしろくないかも」といった否定から入ったから、「意外とよかった」という意味も含めた「普通においしい」「普通におもしろい」という褒め言葉になっているんですかね?
【ふかわ】それもあると思います。だけど、音として伝わってしまうと、それが意味をもたなくなることがあるじゃないですか。今の「普通においしい」の「普通に」はそれほど意味をもっていないと思うんですよ。それがスタンダードになってしまっていて。
【川添】意味合いより、もう「響き」になってしまっている。
「エモい」が同義語の中で生き残った理由
【ふかわ】はい。やはり、そういうフェーズに入るには、使う側の心情と相性がいいんだと思うんです。たとえば「エモい」も今はスタンダードになっているけど、同じような意味合いの言葉はこれまでもあったじゃないですか。
それらの多くが使われなくなり、消えていく中で「エモい」が生き残り、スタンダードにまで上り詰めたのは相性のよさ。時代と、若者たちの感情のマリアージュで生まれた言葉だと思うんですよ。
【川添】「エモい」という響きが、時代にフィットしたんでしょうね。
【ふかわ】「エモい」の価値が上昇したのだと思います。なおかつ、「普通に」もそうですが、ここでも断定を避けている気がするんです。
【川添】「普通に」にしても「エモい」にしても、あと、「界隈」(※)も、それが表す状況に幅がありますよね。相手がどう捉えるかは予測しづらいけれど、広い状況で使える無難な言葉とも言えますね。
【ふかわ】そう、無難! 否定されにくい表現なんです。
※界隈:「○○界隈」と、ある特定のコミュニティ、そこに属する人々を指す言葉。中でも「風呂キャンセル界隈」は若い女性を中心に浸透。「風呂に入るのが面倒」「週に2回しか入らない」という本来不衛生な事象をポップな印象に薄めるからか、女性アイドルなどが続々カミングアウトする事態に。