成長性は武器にできず、株主優待も切り札になりそうにない

だが、そこまで配当利回りが下がっても株が買われるということは、一定の成長性が必要になる。利用者の増加で売り上げが増えるか、より儲かるビジネスへの転換余力があるかどうかがポイントになる。

東京メトロ側も成長性を武器にできないことは分かっている。新線建設などによる大幅な売り上げ増は期待できないし、民間鉄道会社のように路線周辺の不動産開発などに力を発揮できるわけでもないからだ。会社側は、今後も利益の4割は配当に回す意向を示しており、利益が増えれば、年間40円の配当がさらに積み増されていく可能性はある。

売り物の配当だけでなく、株主優待などにも力を入れる。1万株保有した場合、全線乗り放題の定期がもらえる。電鉄会社の株主優待では全線パスは人気アイテムだが、東京メトロの場合、営業距離が決して長くなく、無料利用するメリットが大きいとは言えない。JRや航空会社の株主割引は人気だが、これも移動距離が長距離で、割引効果が大きいことが要因だ。東京メトロの無料乗車券は、もっとも遠い28キロ以遠の利用でも得するのは330円だ。なかなか株主優待も切り札にはなりそうにない。

東京メトロの入り口案内
写真=iStock.com/Sergio Delle Vedove
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「経営の独自性」に問題がある

配当利回りが株価を支えている場合、利用者減で業績が悪化すれば、配当を下げざるをえなくなり、その分、株価も大きく下落するという懸念がある。成長性の乏しさを配当で賄おうとしても、長期的には業績が維持できずに配当利回りも下がっていく懸念があるわけだ。それだけ、株価の上昇には、企業の成長性が大きな意味を持つ。

東京メトロの将来にわたるもうひとつの懸念点は、経営の独自性に問題がある点だ。今回、上場にあたって売り出された株式は、もともと株主だった国と東京都が半分ずつ出したもの。上場によって9500億円が入ったのは国と東京都で、東京メトロには一銭も入っていない。本来、上場に際しては会社が新株発行も行い、その会社に上場資金が入る。上場で得た資金を設備投資などに回して、会社が成長するための原資にするのだ。これが上場の最大の目的と言える。ところが、今回は上場の資金メリットは国と東京都にはあっても、東京メトロにはない。