株式公開としては成功だった

東京都内を中心に地下鉄9路線を運営する「東京メトロ」が10月23日、東京証券取引所に上場した。

証券会社を通じて抽選などで一般に分譲された際の「売り出し価格」は1株1200円だったが、当日の東証では朝から買い物を集めて呼び値を切り上げ、寄り付きでは1630円の初値を付けた。6年ぶりの大型上場で、市場が売り出し株をすんなり吸収できるか懸念する向きもあったが、株式公開(IPO)としては成功だった。この日の終値は1739円で、5億8100万株の発行済み株式数をかけた時価総額は1兆円を超えた。

東証プライム市場に上場し、セレモニーで鐘を鳴らす東京メトロの山村明義社長=2024年10月23日午後、東京・日本橋兜町
写真提供=共同通信社
東証プライム市場に上場し、セレモニーで鐘を鳴らす東京メトロの山村明義社長=2024年10月23日午後、東京・日本橋兜町

新NISAなどによる株式人気の高まりもあり、新規上場にも追い風が吹いた。割安と見られた株は買われる傾向を鮮明に示した。もっとも、市場では「ここまで上がるとは思わなかった」といった声が聞かれた。専門家の多くが指摘していたのは、将来にわたる「成長性」への疑問。東京も今後、人口減少が本格化してくると見られ、地下鉄利用者が大幅に伸びる見込みは薄い。また、一部路線の延伸計画はあるものの、新路線の建設といった事業拡大の可能性も低い。「成熟した会社」という見方が強いのだ。このため、会社側が見込んだ1株1100円から1200円という水準から、これほど大きく上振れするとは思われなかったというわけだ。

成熟企業となると「保有メリット」が焦点になる

成熟企業となると、配当など保有メリットがどれだけ大きくなるかが焦点になる。購入価格に対する配当額を計算する「配当利回り」が注目されるが、東京メトロは1株40円配当を予定している。売り出し価格の1200円で計算すると年間利回り3.3%、初値の1600円だと2.5%、終値の1739円だと2.3%になる。

電鉄会社などのインフラ企業は配当性向で評価されるケースが多い。成長性は乏しくても、インフラ企業なので倒産リスクはまずないうえ、毎期の配当や株主還元による保有メリットが重視される。一定株数を保有すると無料切符や定期券がもらえる株主優待も根強い人気がある。

配当利回りで見ると、まだ東京メトロに優位性があると見ることもできる。既に上場している首都圏の電鉄会社の配当利回りは、東武鉄道が2.08%、小田急電鉄が1.92%、京王電鉄とJR東日本が1.58%、京浜急行電鉄で1.28%といったところで、京成電鉄や東急電鉄、JR東海などは1%を下回っている。仮に東京メトロが配当利回りで京王電鉄やJR東日本並みの1.58%の水準まで買われるとすると、株価は2500円まで買われても良いということになる。