「愛着の不安」や「トラウマの影響」が生きづらい状況を作り出す

発達障害と診断したほうがその方にとって生きやすい状況を作れる、サポートやケアにつながるという場合はそのようにし、愛着やトラウマの問題としたほうが良い場合にそのようにする。もちろん両方の問題が生じているという場合もあります。

わからない場合は、発達障害との診断は一旦脇に置き、愛着やトラウマのケアから入る、というのが臨床、そして当事者にとっても一番合理的です。

「発達障害=発達凸凹+適応障害」[杉山登志郎『発達障害のいま』(講談社)など]と表現されるように、少なくない医師や専門家が、発達障害の問題とは遺伝的に決定されるのではなく、「愛着の不安」や「トラウマの影響」が及んだ場合に生じる、としています。

つまり、発達障害か否かいずれにしても、環境からもたらされる「発達性トラウマ(愛着不安)」こそが問題をもたらしていると考えられるのです。仮に発達障害の傾向が強くても、トラウマの影響が少なく、愛着が安定していれば人格者として慕われたり、才能として力を発揮するということは少なくありません。

焦燥感や不眠、フラッシュバック、過緊張から対人関係に問題も

では、トラウマはどのような影響を及ぼすのでしょうか?

トラウマとはまずは「ストレス障害」としてとらえられます。脳や自律神経にダメージが生じます。うつ症状、不安といったこともそうですが、焦燥感や不眠、フラッシュバック、過緊張といった問題。不注意やミスが増えます。対人関係もうまくいかなくなります。落ち着いて環境に合わせたり、対応したりということができなくなります。

特に問題なのが「自己の喪失」という問題です。自分というものが失われてしまう。自信や自尊心の欠如もそうですが、自分が明確ではないことは、仕事でのパフォーマンス低下などといった問題とも密接に関わるのです。

これらが、発達の凸凹によってレンズのように拡大し、生きづらさとなって現れるのです(先ほど、「愛着やトラウマのケアから入る、というのが臨床、そして当事者にとっても一番合理的」と述べたのはこのためです)。

両手で顔を覆う女性
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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