ニトリが従業員に「ITパスポート」取得を促すと話題に
昨今は、DX、デジタルトランスフォーメーションが注目のバズワードとなり、企業も様々な取り組みを進めているが、DXを推進するための人材を育成しようと、IT関連の資格も注目されている。
たとえば、2023年には家具・インテリア小売業のニトリが約1万8000人いる従業員の8割にITパスポートを取得してもらうという日経新聞の記事が大きな話題になった。
ニトリの意図は、ITパスポートの資格取得によってすぐに現場の業務改善が進む、といった短期的な視点ではなく、社員のITに対する意識の底上げや、意外とITできるかも私、といった社員自身による気付きとそこから始まるリスキリングといった中長期的な視点にあるのだろう。
また、ITパスポートに限らず、筆者が企画・設計・分析した「いい部屋ネット街の住みここちランキング」の回答者に対して2022年に行った追加調査のデータを分析してみると、IT関係の資格を取得すること自体は、個々人の年収にはほとんど影響を及ぼさないことがわかっている。
IT関係の資格が個々人の年収に影響を及ぼさない背景には、日本社会では、個々人の給料は個々人の能力ではなく、どの業界のどの企業に就職したかで決まることがある。
個人の年収は業種と企業規模で決まる
国税庁の令和5年の「民間給与実態統計調査」によれば、業種別で平均年収が高いのは、電気・ガス・熱供給・水道業の784.1万円、金融・保険業の606.5万円、情報通信業の606.0万円で、平均年収の低い業種は、宿泊業・飲食サービス業の150.4万円、農林水産・鉱業の260.6万円、複合サービス業の305.9万円、サービス業の306.4万円、卸売業・小売業の321.2万円などとなっており、全体平均は387.3万円となっている。
一方、企業の従業員数では、最も平均年収が低いのは1~4人の314.0万円で、従業員数が多くなれば平均給与が上がっていき、1000人以上5000人未満では449.2万円となっている。
このように日本では業種と企業規模で給与が大きく違い、個々人の能力が給与に反映されにくい仕組みになっている。
そして、業種や企業規模にかかわらず年功序列の傾向も強く残っており、55~59歳の年収は25~29歳の概ね1.5倍程度で、従業員5000人以上の企業の55~59歳年収は651.9万円となっている。
日本の平均年収は下がり続けているというニュースがよく報道されるわりに、その実感がないのは、個々人で見れば年功序列の給与体系によって、ちゃんと年収が上がり続けているケースが多いためだ。