不要なモノを捨てると、大切なことに気づく

具体的にはどんなことを捨ててキャリアを築いていけばよいのだろうか。年代ごとに考えてみよう。20代は自分の力をつける時期なので、とにかく現場を経験することが大切である。好き嫌いに関係なく、何事にも貪欲にトライしてみる。先入観や既成概念を捨て、将来、それが仕事の役に立とうが立つまいが、自分の可能性を狭めずに仕事や興味の範囲を広げることが逆に将来につながっていく。

30代は20代で経験したことや自分の希望、実力などを鑑みて、得意分野、得意技を絞り込んでいくことが重要である。20代で経験したすべてのことを自分の強みにすることはできないので、そこで一度、何が必要で何が必要でないかを熟考してみる。そして、自分の仕事の意味合いを理解することも必要だ。20代のときのように目の前の仕事に没頭するだけでなく、自分の仕事は全体のなかでどういう位置づけにあるのかを理解し、推し量る時期でもある。

40代はそれまでに培った強みを実戦で生かし、いよいよ成果を出していく時期である。会社も顧客も、この年代に期待するのは素質や伸び代ではなく、きっちりと結果を出せる能力である。40代がビジネスパーソンにとって最も大変な時期といえるが、私欲を捨てて仕事に邁進すべきである。

50代以降は仕事を次世代に引き継いでいく時期。個人の手柄を捨てて、それらを部下に渡そう。この年代になると、部下がどれだけあなたを支持してくれるか、どれだけのリーダーシップを発揮できるかがあなたの評価につながる。部下に仕事を少しずつ引き継ぎ、プライベートライフの比重を上げていく時期でもある。

このように見ていくと、一見まったく違った生活をしているモンゴルの遊牧民と、日本のビジネスパーソンの断捨離には共通点があることがわかる。それは、自分なりに幸せの指標を持つことが最も大切であるという点である。

冒頭で物欲が少ないモンゴル人の話をしたが、近年は資本主義の導入で競争原理が働くようになり、国民の半分近くが都市部に定住するようになった。その結果、モノを持つようになり、人々は物欲の塊のようになりつつある。都市部ではモノが幸せの指標となったので、他人が得たモノをうらやみ、それと比較して、自分もモノを得られないと不幸だと感じる人々が増えてしまった。ビジネスパーソンでいえば、会社の同期と比べて早く出世したり業績を挙げたりしなければ、自分は幸せになれないと感じてしまうことに似ている。他人軸を気にし始めたとたん、自分の幸せの基準がわからなくなってしまうのである。

一方、断捨離上手な遊牧民はモノという指標がないから、他人と比べることがなく、すべて自分軸で行動している。これこそ究極の自己満足といえないだろうか。自己満足とは決して悪い意味ではなく、自分軸で、自分なりの幸せを感じるということである。

幸せの基準は1人ひとり、みな違う。不要なものを捨てることによって、最も大切なことに気づく。それが自分の幸福を築くことにつながるのである。

田崎正巳
一橋大商学部卒業。IMD(スイス)PEDコース修了。味の素、BCGマネジャーを経て、欧州の投資会社アータルに入り、アータル・ジャパンを設立、代表取締役に就任。その後、ATカーニーのヴァイスプレジデントを経てSTRパートナーズ代表。著書『ビジネスパーソンのための断捨離思考のすすめ』。
(構成=中島 恵 撮影=TORA)
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