円安・物価高騰が直撃
ただ当時はSNSに情報グループができるほどの広がりはなかった。コロナ禍で留学生の新規入国が止まり、現在の留学生は週28時間労働を理解し、出稼ぎを目的とした留学生は減った。
なぜ、違法な手渡しバイトが急増しているのか。大きく3つの理由がある。
一つ目は、円安だ。外国人労働者の約25%を占めるベトナム人をはじめ、出稼ぎ目的で入国する東南アジア諸国の通貨に対しても、円は安くなっている。
7月に日銀が追加利上げを発表するなど円高が進んだが、6月には1円=160ドンを切る水準にまで下がっていた。ロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始した22年2月頃から円安が進み、以前は1円=200ドンを上回る水準だった。
円安は、物価高騰も意味する。ベトナムの送り出し機関幹部が話す。
「生活費も上がって使えるお金が減り、同じ金額を仕送りしても、母国通貨に戻すと目減りする。留学生だけではなく、技能実習生や特定技能外国人のなかにも手渡しバイトで少しでも稼ごうとする者もいる」
平日は技能実習生や特定技能の在留資格で働き、週末は違法な手渡しバイト――。
目減りした賃金を補おうと、こうした違法バイトが留学生以外にも広がったという。
「働き方改革」で残業ができなくなった
目減りしたのは円安による可処分所得だけではない。18年に改正された「働き方改革関連法」に基づき、休日労働を含まない残業時間の上限枠が設けられた。
中小企業や建設業・ドライバーなどの特定の職種には猶予期間が与えられていたが、24年4月以降は企業規模を問わず、すべての業種が対象となった。
出稼ぎ目的で入国する技能実習生や特定技能外国人から、その採用面接で必ずといっていいほど出てくる質問が「残業はありますか?」
もちろん、彼らが残業の少ない仕事を探しているわけではない。むしろ逆だ。お金を稼ぐことが目的の彼らにとって、「残業の多い企業=いい企業」となるのだ。国による残業規制は、そんな彼らにとってマイナスであり、違法な「手渡しバイト」が横行する2つ目の理由となっている。