元バンドマン60歳独身息子「一人で生きていけるでしょうか?」

話を聞くと、長男は高校卒業後に地元の電機メーカーに就職し、そこまでは何も問題がなかったそうです。親としては、「子育てが終わった」と一安心していましたが、25歳になると、突然会社を辞めてしまいました。もともと音楽が好きでバンド活動をしており、その道で身を立てたいと活動に専念したのです。

20代の頃は「まだ若いのだから、好きなことに挑戦しなさい」と、親としても応援していました。30代になったら、落ち着いて堅実な仕事に就いて家庭を持つことだろうと、タカをくくっていた面もありました。

ところが、30代になってもいっこうにあきらめる気配はなく、アルバイトをしながら音楽活動を続けていました。40代になるとさすがに音楽で身を立てることはあきらめましたが、就職が難しくなり、アルバイト生活が続きました。

ライドを叩くドラマーの手元
写真=iStock.com/tylim
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50代になり、体調を崩してからはアルバイトもしなくなり、無職の状態が続いてしまいました。60歳になる今では、親も子も、すっかり就職はあきらめています。

現在の収入は、相談者の年金だけ(母親の老齢基礎年金と亡き夫の遺族厚生年金で、合計183万円)です。亡き夫の遺族年金も含まれていますので、何とか2人で生活はできますが、母親が亡くなると、母親の年金はもちろん、遺族年金も止まってしまいます。

「今のところは大きな病気はしていませんが、私もいつまでも元気なわけではありません。私が死んだ後、息子は一人で生きていけるのでしょうか?」

母親はため息をつきます。

「幸い、お子さんが1人ですので、ご自宅も預金も相続できます。ただ、最近の物価上昇を踏まえると、難しいかもしれません」

今後20年、30年を考えると、ある程度の預貯金があっても、なかなか維持することが難しくなっています。シミュレーションをしてみないことには、私も簡単に答えられません。

「こんなことなら、いっそ一緒に死んでしまったほうが、なんて思ったりして……」

母親は笑いながら、冗談とも本気ともつかないことを言います。

「何を言っているんですか。ダメならダメで、生活保護もあります。まずはシミュレーションをしてみましょう。ある程度ですが、将来の状況が見えてきます」

私はあわてて、シミュレーションの作成に取りかかりました。作成しながら、私も不安になっています。明らかに資金不足で、いずれ行き詰ってしまうような結果だと、母親はますます将来を悲観することでしょう。かといって、作為的に楽観的なシミュレーションを作成するわけにもいきません。現実と乖離かいりしてしまえば、誤ったメッセージになってしまいます。