親の年金なしでも長男が88歳まで生き延びることができたワケ

伺ったデータを入力しながら、どのような結果になるか、私もドキドキしてしまいました。

結果を見てみると、母親が亡くなった後(10年後の92歳で他界と想定)は、貯蓄(約800万円)が減少していきますが、長男が88歳になるまではなんとか底を突かずに維持できそうです。もちろん、さらに長生きする可能性もありますので安心はできませんが、「どうにもならない」と悲観する必要はありません。

【図表】資金状況のシミュレーション
筆者作成

「けっして余裕があるわけではありませんが、ご長男が生涯をまっとうするまで、なんとか資金不足に陥らずにすみそうです」

「そうですか。なんとかなりそうですか。安心しました」

母親は安堵あんどの表情を浮かべました。

今回の相談事例は“富裕層”ではありません。母親が受け取る年金は一般的な金額で、貯蓄額も特別に多いわけではありません。それでも親亡き後に働けない子が貯蓄を維持できるシミュレーション結果になったのは、3つのポイントがありました。

1つは、戸建ての自宅があったことです。マンションだと管理費や修繕積立金を毎月支払わなければなりませんが、戸建ての場合は自分で調整ができます。今の状況では自宅のメンテナンスにあまり費用はかけられません。今後30年も住み続けるとなると、かなり傷んでしまいますが、雨風をしのぐことはできるでしょう。住居にかかる費用を抑えることができます。

2つ目として、長男が退職してから、母親がずっと国民年金の保険料を払っていたことが挙げられます。そのおかげで、長男は親亡き後もある程度の収入を確保することができます。長男が60歳になるまで払い続けてくれたことで、長男の老後が改善されています。

3つ目は、長男がムダ遣いをしないタイプだということです。働かない子の中には、インターネットなどで頻繁に買い物をしてしまうタイプも少なくないのですが、相談者の長男は違いました。音楽を辞めてからというものの、特に趣味らしい趣味はなく、ムダな買い物をしてしまうことはありません。今後も最低限の支出で生活していけそうです。このようなことから、無職のままでも生涯をまっとうすることができそうです。

5年後に長男が65歳になると、母親と2人で年金を受給することになります。シミュレーションでは、母親が亡くなるまでの間は、支出よりも収入のほうが多くなり、貯蓄を増やしていくことができます。私はシミュレーションを操作しながら説明します。

「お母様が長生きすればするだけ、ご長男の状況は改善されます。健康で長生きすることを考えてください」

「私が100歳まで生きれば、息子の老後にも余裕ができてくるのですね。なんだか元気が出てきました」

母親の笑顔を見て、私はほっと胸をなでおろしました。

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