在日コリアンは日本でも韓国でも差別を受けてきた歴史がある。大阪で生まれ育ち、韓国に約1年間留学した在日コリアン3世の韓光勲さんは「在日コリアンという存在をよく理解しない人からの素朴な言葉に傷つくことはあるが、両親や祖父母の世代と比べたら状況は改善している」という――。

※本稿は、韓光勲『在日コリアンが韓国に留学したら』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

白い人形の群衆の中にある一つの黒い人形
写真=iStock.com/Shutter2U
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韓国人女性「あなたの韓国語は流暢じゃない」

韓国では腹の立つこともたびたびあった。飲み会の席での出来事だ。先に述べておくと、「韓国で差別された」とか、そういうことが言いたいわけではない。僕は物書きなので、あったことをそのまま書くのみである。

飲み会の席で初めて会った30代くらいの韓国人女性に、英語でこう言われたのだ。

「Can you speak English? Because your Korean is not fluent.(あなた、英語を話せる? あなたの韓国語は流暢じゃないから)」

驚いてすぐに反応できなかったが、やがて怒りでワナワナ震えた。こんな侮辱はない。

「あなたの韓国語は流暢じゃない」なんて一番言われたくない言葉だ。おまけに「韓国語じゃなくて英語を話せ」と言われているのだ。

僕は母語が日本語で、韓国語を勉強するために韓国に留学しに来ている。韓国語のレベルは中級~上級くらいだと思う。当時、語学堂(語学学校)では、上から2番目のクラスに所属していた。韓国語能力試験の6級(最高級)に合格したこともある。

想像力がある人なら言うはずがない言葉

その韓国人女性の言葉は、僕をバカにしているだけでなく、韓国語を学びにわざわざソウルにやってきた僕の人格を否定する言葉だと感じた。

在日コリアン三世として育った僕が、どんな思いで韓国語を勉強してきて、語学堂にいま通っているのか。少しでも想像力を働かせてほしい。とにかく悲しかった。

怒りを鎮めるため、まずは深呼吸をした。少し時間をおいて、僕は韓国語でこう言った。

「どうして英語で話すんですか。悲しいです。傷つきました」

場の空気が固まった。シーンとした。その人は驚いて目を丸くして、キョトンとしていた。理解できていなかったのだと思う。

すると、僕の知人が加勢してくれて、「この人は韓国語を聞き取れますよ。私たちの話を理解しています」と言ってくれた。

今振り返ると、「一言でそんなに怒らなくても」という気もする。だけど、いざ面と向かって言われると、尊厳を傷つけられたような気がした。侮辱されたと感じた。こういう人は一度も外国に出たことがないのだろう。想像力のない人だから相手にする必要はないが、だからといって何を言われてもいいわけではない。