「将来への不安から逃げたい」

このところ、中国で“青年養老院”が関心を集めているようだ。本来、養老院とは老人ホームを指すはずなのだが、ここでいう青年養老院とは、若者同士が安価な滞在料金を支払い、共同生活するシェアハウス型の施設を指している。

青年養老院が増えている背景には、就職ができず将来を悲観する若者に居場所を提供するニーズがあるのだろう。そこには、ある種の皮肉が込められているとの指摘もある。報道によると、青年養老院に入る若者の多くは、都市部での仕事をあきらめて集まっているようだ。SNSの投稿には、「焦りから解放されたい」「将来への不安から逃げたい」などのつぶやきもみられるという。

青年養老院増加の背景には、中国の若年層(16~24歳)を取り巻く雇用・所得環境の悪化がある。ここへきて、若年層失業率は上昇傾向にある。不動産バブル崩壊で社会全体の活動が低下したこともあり、若年層の雇用環境は一段と悪化している。大学卒業者数は増える一方、企業サイドの求人は期待されたほど伸びていない。雇用のミスマッチは一段と深刻化している。

重要演説を行う習近平氏
写真=中国通信/時事通信フォト
中国人民政治協商会議成立75周年祝賀大会に出席し、重要演説を行う習近平氏〔新華社=中国通信〕

仕事も結婚もあきらめた“寝そべり族”

10月1日から7日の国慶節の連休前に、中国政府は総合的な経済対策を発表した。政府は不動産市場を下支えし、失業問題などに取り組む姿勢を改めて示した。ただ、そうした政策が、若者へどの程度の福音をもたらすかは必ずしも明確ではない。若年層にとって、希望が持てる雇用・所得環境への改善が早くやってきてほしいはずだ。

コロナ禍や不動産バブル崩壊をきっかけに、中国の大学生など若年層の間で、“躺平タンピン主義”への関心が高まった。躺平とは、“寝そべり”を意味する。“寝そべり族”という呼び方を使うケースも増えた。

寝そべり族の定義は複数ある。一般的には就業せず親と暮らすことを指すようだ。住宅や自動車などを買わず消費を最低限に抑え、恋愛も結婚もしない。そうした価値観が、“寝そべり族”に共通の要素のようだ。

不動産バブル崩壊により、中国経済の投資主導型モデルが終焉を迎えた。その影響を最も強く受けたのが若年層だった。若年層の就労意欲低下は、個人消費増加に重要なマイナス要因になる。