顧客やユーザーの心を動かすストーリーはどう作られるか。リブランディングコンサルタントの深井賢一さんは「伊勢志摩でとれた真珠を使用した『SEVEN THREE.(セブンスリー)』は、すべての真珠の個性は唯一無二の造形美として捉え、突起のようなものがついた真珠に『金魚真珠』というチャーミングな名前をつけることで『価値化』しているブランドだ。伝統にとらわれない新しい価値が『ストーリー』から生み出されている」という――。

※本稿は、深井賢一『売れる「値上げ」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

貝殻と真珠
写真=iStock.com/BorisVasilenko
※写真はイメージです

流通に乗らない真珠に愛おしさを感じる

流通に乗らない真珠が、唯一無二の宝石に
SEVEN THREE.「金魚真珠」

『SEVEN THREE.(セブンスリー)』は、あこや真珠に特化したジュエリーを製作・販売しているブランドです(社名はサンブンノナナ)。

あこや真珠と言えば、真っ白でゆがみのない球形で、真円に近いほど価値があると一般的には認識されています。

日本の真珠の代表的産地は愛媛、長崎、三重。この3県で全体の9割を占め、中でも三重県の伊勢志摩は、「ミキモト」で知られるあこや真珠養殖発祥の地として有名です。

『SEVEN THREE.』のジュエリーは、この伊勢志摩でとれた真珠を使用しています。それだけを聞けば、最高の白さと光沢ときれいな真円をした高級真珠だろうと想像するかもしれません。

ところが『SEVEN THREE.』のサイトを開いたとたん目に飛び込んでくるのは、トップページ一面にちりばめられた無数の真珠。

ただし、どれも真ん丸とはほど遠く、突起のようなものがついていたり、色も黄色っぽいものもあれば青色のものもあったりと、およそ見たこともないような外観のものばかり。

ひと目見たとき、私などは「まるで電球みたいだなあ」と思ってしまったものです。

ゆがんでいる真珠は「バロック真珠(バロック=「ゆがんだ」の意)と呼ばれ、多くは流通に乗ることがなかったり、乗ったとしても加工業者などに破格の安値で取引されています。

しかし、『SEVEN THREE.』のジュエリーに使われているのは、このような真珠ばかり。しかも、訳アリ品として値引いて売られているのではなく、真円の真珠のジュエリーと同価格帯の値段で売られているのです。

従来、真珠業界では厳しい基準で品質を保ち、産業を成り立たせてきた歴史と伝統があります。そのうえで、そうした伝統にとらわれない新しい価値が「ストーリー」から生み出されたのです。