祖父の仕事を間近で見ながら感じた「真珠の個性」

『SEVEN THREE.』をプロデュースしているのは、伊勢志摩出身の尾崎ななみさんという女性。

祖父が真珠の養殖業者で、幼い頃から祖父の仕事を間近で見ながら、真珠に興味と親しみをおぼえていました。ただ、家業を継ぐことはまったく考えておらず、高校卒業後は上京してモデルやタレントの仕事をしていました。

その尾崎さんが真珠に関わりながら新しい人生を歩むことになったターニングポイントは、祖父の仕事を手伝う機会ができたときから。あこや貝から真珠を取り出し出荷するまでの過程で行われる選定、つまり、形・色・大きさなどの基準から仕分けを行う作業を手伝っていた際に、尾崎さんはそれまで思いもよらなかったことに気づきました。

真珠は同じ手間暇と歳月を費やしても、一粒ずつ色も形も異なり、それぞれの個性をもって生まれてくること、そのすべてが自然の恵みの美しさをたたえていること、です。

しかし、尾崎さんには美しく愛おしく思える真珠も、出荷できる形・大きさ・色の基準を満たさないものはすべて取引されない現実に衝撃を受けます。

母貝の中で静かに育まれ、真珠として成長するまでには、気が遠くなるほどの手間と3~4年という長い歳月がかかります。職人さんたちが手塩にかけ、生まれてきた結晶なのに、その労苦が無に帰してしまうことにも心が痛みました。

「この真珠たちにも、なんとかして陽の目を見る機会を与えてあげられないものだろうか。職人さんたちの労苦に報いることはできないものか」

と考えるようになります。

「訳アリだから安く値引く」はやらない

そんなある日、思わず目にとまった突起のようなものがついた真珠に、「まるで金魚みたい」と思った尾崎さん。さっそく「金魚真珠」という愛称をつけ、そのままの形で売り出すことを思いつきました。

そして、伊勢志摩の真珠を守り、職人の支援につながることをしたいという思いから、『SEVEN THREE.』というブランドを立ち上げることにしたのです。

以後、「どんな姿形の真珠であっても、すべてが自然の造形美。真白、真円だけでなく、もって生まれた色や形はそのままで美しい」という信念のもと、「金魚真珠」をはじめとした多種多様な色や形の真珠を、それぞれの個性を活かし、無着色・無加工でジュエリーに使用。『百花―HYAKKA―』というコレクション名で、ペンダント、指輪、ピアスや、男性の方でも身につけられるピンバッジなどを製作、販売しています。

真珠のペンダントをつけている女性
写真=iStock.com/Biserka Stojanovic
※写真はイメージです

養殖業者さんからの仕入れ価格も、「訳アリだから安く値引く」ことはせず、業者さんの希望価格で買い取っています。

その仕入れコストを販売価格に転嫁すれば、当然、通常の真珠と同じくらいの価格になります。

しかし、これまで価値のないもののように扱われていた真珠が、チャーミングな名前をつけてもらうことで価値あるものになりました。「価値化」されたのです。

まして、すべての真珠の個性は唯一無二の造形美なのですから、それまでの伝統的な基準の真珠も「金魚真珠」も、まったく同等なものです。価格差をつける理由は、何もありません。