TOPIC-5 不安と焦りが再燃する女性40代

表を拡大
表 女性向け40代論対象書籍

さて、最後は40代女性論です。30代論では、20代論のスタートラインであった不安・迷い・焦りを振り切り、これからが「本当の人生だ」とする、明るい基調の著作が多かったように思います。しかし40代論になると、再びそのスタートラインはやや暗い基調のものになります。

「『仕事にやりがいは感じているけど、ずっとこのままでいいのかしら』『今までは年齢なんて意識したことはなかったけど、最近気になってきて……』『仕事も恋愛も楽しんできたけれど、気がつけばひとり』 うまくいっているときはいいのですが、何かうまくいかないことがあると、つい消極的になったり、またはそんな自分を認めることができずに、必要以上に頑張りすぎてしまったり……。『これから先の人生を、どんなふうに生きていけばいいのか』 ふとそのようなことを考え、不安や焦りを覚える人は多いようです」(浅野、1-2p)

「『私の人生、今のままでいいのかしら……』『何かやり残したことがあるのでは……』 この本を手にとってくださったみなさんの中にも、こんなもやもやした思いを抱いている方がいらっしゃるのではないでしょうか」(近藤、3p)

「かつては悩んだとき『これでいいんだろうか』と考えたのに、気づくと『これで良かったんだろうか』の過去形で考え始めている。今の40代ならでの難しさは、自分でもどうネーミングしていいのかわからない『揺らぎ』の時期のせいなのではないか……と思うのです」(中山、5p)

TOPIC-2で述べたように、現代日本の女性にとって、仕事、恋愛、人間関係、結婚、出産といった事柄は、「別でありえたかもしれない自分」の可能性を想起させるものになっていると考えられます。20代において主に想起されるのは「未来に向けての可能性」ですが、40代においてそれは、自分の過去の人生は「これで良かったんだろうか」という回顧に姿を変え、ときに後悔の源泉となる場合があります。ここに再び、20代論とはやや質の違う不安・迷い・焦りが生じてくる――40代論のスタートラインはこのように捉えることができます。

しかし、解決策は20代論と同様です。人と比較するのではなく、自分自身の価値観を問い直し、「『自分は何をしたら幸せと感じるか』をきちんと自己分析」(近藤、16p)すること。そこで見つけ出された「ありのままの自分」を受け入れ、愛すること(金盛、148pおよび、横森、125p)。「今ないものに未来を託すのではなく、あるものをより輝かせること」(浅野、33p)、等々 。こうして、「自分だけの『幸せの法則』を見つけ出」(浅野、4p)そうというわけです。これまでと同じですね。

ここでは具体的な手法として、中山庸子さんの『楽しくつくって、願いをかなえる 40歳からの「夢ノート」』での事例を紹介しておきたいと思います。同書では、他人と自分の人生を比較するような考え方からは、「長女のネタミ・次女のソネミ・三女のヒガミ」という「ネガティブ三姉妹」が生まれてしまうと述べています(7p)。そのため、他人と比較することをやめ、特に「ネタミ」という感情のなかに含まれている「欲張りさ」を「夢」に変えていくことで(9p)、不安や迷いを昇華させ、楽しく日々を過ごせるようにしようというのです。

より具体的には、自分のなかにある「虚栄心」について、そのいいところをとって「向上心」に変えることなどが推奨されています。他にも、「執念深さ」のいいところを「粘り強さ」に変える、「後悔」は「教訓」に変える、等々(40p)。こうして、「夢のタネを蒔く前に取り除いておきたい『ゴミ』や『小石』」(38p)を処分するという「デトックス」(41p)を行ったうえで、あとは自分の夢に向かって日々頑張ろうというわけです。

このように、40代でもまた「自分らしさ」を取り戻すことが根本的な解決策として示されています。「ねばならない=must」ではなく「したい=want」を基調に据えること(中山、55p)。自分を信じ受け入れることで、自分に自信を持ち、自分の人生の選択を前向きに捉えられるようにすること(横森、124、183p)、等々。女性向け「年齢本」の基本的な論理は、以下の言及に端的に表われているような、自分を中心とする世界観の(再)獲得にあると結論づけることができます。

「結婚することも子供を持つことも、それが人生の目的ではありません。いつの場合も、人生の中心には自分がいて、本人が幸せでありつづけることがもっとも大切な目的です」(浅野、117p)