TOPIC-3 自己肯定ツールとしての自己啓発書
前回は、女性向け「年齢本」を貫く「自分らしさ」という原理について見てきました。今回は、このような「自分らしさ」を重視する態度が、仕事や恋愛、結婚などの具体的テーマに適用されるとどうなるのか、前回に引き続き20代論を対象に見ていきたいと思います。ただ、「年齢本」で扱われる内容は非常に多岐にわたるので、今回は仕事、外見、恋愛の3テーマに絞ることとします。
まず仕事についてですが、「年齢本」の基本原理を確認しておきましょう。人生の目標は幸せになることである。幸せは状況から自動的にはもたらされない。それは「心」の問題である。より具体的には、どのような状況に置かれても「自分らしく」あれることが重要である。今ある自分自身をすべて受け入れ、信じることで「自分らしさ」を自らの内に見出し、そしてその「自分らしさ」を基準にして自らの人生を自覚的に、責任を持って過ごしていかねばならない――。
このような観点から、仕事への言及についていくつか見ていきましょう。最も端的なのが高梨美雨さんの『28歳から「あなたの居場所」が見つかる本』での言及ですが、高梨さんはしばしば、以下のようなさまざまな女性の働き方について言及します。
「自分で会社を起こして、“成功者”なんて周囲から注目され、何億円ものお金を稼いでいる人もいます。あるいは、OLをずっとやってきて、『婚期を逃しちゃったなあ』なんて思いつつも、“お局さま”の域に達してきた自分を感じている人もいるでしょう。また会社にうまくフィットできず、いまは派遣社員として働いていたり、あるいはアルバイトで仕事をしている人もいる。その一方で、結婚して専業主婦をしている、なんて人もいますよね」(106p)
しかし高梨さんは、仕事において重要なのは、「OLだから仕事が楽しくない」あるいは「起業家じゃないから私は輝いていない」というような、職種や雇用形態ではないと述べます(107p) 。たとえば主婦もまた一つの仕事であるとしたうえで、「輝いている主婦」であるか「輝けない主婦」であるかどうかは、「主婦という仕事の中に、自分の“存在意義”を見出しているかどうかということが大きい」(108p)、つまり自分自身の考え方の問題だと述べるわけです。これは、輝けるか否かは、自己責任、自助努力の問題にされているということでもあります。具体的には以下のように言及されます。
「多くの人は、『輝くための努力』をなにもしないで、ただ自分の選択でそうなっている現状に不満をいっています。厳しいようですが、それではなにも変わらないのです」(109p)
こうした観点が、主婦のみならず、仕事一般に適用されていきます。どんな仕事をするか、どんな風に働いていくのかを選択するにあたっては、「仕事はやっぱり、自分自身がどうあるかが大事なのです」(127p)、「『会社のために自分がある』と考えないこと。あくまで“会社”という場所に、自分自身の居場所をつくって仕事をしているのです」(122p)というように。浅野裕子さんもまた、「どんなことでも、すべてが自分の可能性につながっていると思えば、将来の夢へのきっかけになります」(64p)として、自分という観点から仕事について考えようと促しています。