TOPIC-2 「自分らしさ」という至上原理
今週と来週は、女性向け20代論(表参照。これまでは文中に著者が初出する際、その職業を記載していましたが、以後は簡略化のため表に記載することとします)について見ていきます。まず考えたいのは、20代女性論の議論がどう始まるか、つまりその「スタートライン」についてです。いくつか引用してみたいと思います(以下、数字表記はすべて算用数字に置き換えて引用します。また、一文ごとに改行されることが多いため、適宜改行部分を詰めて引用します)。
「28歳はまさに女性にとってのターニングポイントであり、女のわかれ道――。仕事に恋愛に、お金、転職、結婚、美容、健康など、ライフスタイルもそろそろリアルな選択を迫られる時期ですね。そして28歳のほとんどの女性が、漠然とした不安を抱え、焦りを感じているといいます。“今がいちばん楽しい時”だけではないようです」(角川、1p)
「28歳、これからあなたが手に入れたいものって、どんなものですか? 自分を生かせる仕事? 幸福な結婚? 周りから認められて、輝いている自分自身?」(高梨、3p)
「25歳って、まだ若いけど、もう若くない。若いというだけでチヤホヤされていた時代は明らかに終わってしまい、そろそろ結婚する友だちが現れて焦ったり、あるいは恋愛でいつもの悪循環に陥っていたり、仕事ではまだ“できる女”と呼ばれるほどには経験がなかったり、転職したいのに勇気がもてず会社を飛び出せずにいたり(中略)加えて、30代は足音を立てて確実に近づいている! という事実。そのことに恐怖さえ覚え、何だか無性に、そしてムダに焦っていたような気がします」(小倉・神宮寺、1p)
焦り、迷い、不安。これらが、20代女性論のスタートラインにある感情です。引用箇所にあるように、恋愛、結婚、仕事などについて、今後どうしていくのかという問題が「リアル」なものになってくるのが20代(後半)だ、さあどうしようというところから各著作は書き出されているのです。
では今述べたような不安や焦りはどのように解消されるのでしょうか。まず大枠としては以下のような枠組が示されます。
「あなたは、なんなのでしょう? あなたはもちろん、一人の女性であり、幸せな恋愛もできれば、幸せに仕事をすることもできる。ただ欠けてしまっているのは、“こうなれば、わたしは幸せなんだ”という、自分自身のあり方なのではないでしょうか? ちょっといい方を変えれば、“仕事や恋愛、その他ありとあらゆるものごとと、自分自身との位置関係”――そんなことではないかと思うのです」(高梨、5p)
「もし、あなたが自分の未来に漠然とした不安を抱えているなら、原因をまわりに求めるのではなく、自分自身と徹底的に向き合ってみることです。自分と向き合うことなしに、本当にやりたいことは見つかりません」(浅野、18p)
これまでの連載を読んでくださった方なら、予想はついていたかもしれません。自分自身のあり方、自分自身と向き合うこと、心のキメ方――そう、あなたの「心」の問題だというわけです。
ところで、自己啓発書とは、概していえば「二分法」で世界を切り分け、読者が陥っている「間違った」考え方・行動の仕方を、「正しい」ものに優しく矯正しようとするジャンルだといえます。これは連載のなかで幾度も述べてきたことでした。では、女性向け「年齢本」においては、どのような考え方が間違ったものとして退けられたうえで、「心」に注目しようとされているのでしょうか。二つほど引用してみます。
「わたしたちの願う“幸せ”とは、知らず知らず、周りの固定観念に振り回されていることが多いのです。『28歳で恋愛経験は何回あるべき』とか、『30代で結婚できない女は不幸』とか。(中略)もちろんこれらは一つの価値観ではあるのでしょうが、問題は本当にあなたを幸せにする価値観なのかということです。それは誰にもわかるものではありません。(中略)ただ一人、わかるとしたら、あなた自身しかいないのです。だから、あなた自身の価値観をしっかりと見定めて、それに従った自分自身のライフスタイルをつくってほしい」(高梨、36-37p)
「『自分らしさ』っていったい何だろう? 経済的に不安のない無難な相手と『将来が想像できる』生活をして生きていく。本当にそれが私が求めた幸せだったの? 『理想の自分』を求めて、ずっと誰かのようになりたいと矛盾したことを願っていたことに私はやっと気がついた」(青山、36p)
自分らしさ、自分自身の価値観――つまり「心」――に対置されているのは、周りの固定観念、誰かのようになることといった言葉です。「誰かに与えてもらう夢」(浅野、35p)ではなく、「あなた自身の本物の感性」(浅野、45p)を磨こう。このような対置のあり方は、既に連載で紹介した書籍にも見られるものでした。
それは心理カウンセラー・石原加受子さんが『「しつこい怒り」が消えてなくなる本』(すばる舎、2011)などで示した、「自分中心」か「他者中心」という二分法です。世の中一般、あるいは周りの人がいいと思っていることに自分を合わせる(他者中心)のではなく、自分自身が心からそう思うこと、自分の感性に響くことを自分の人生の基盤に置こう(自分中心)、という考え方の推奨です。女性向け「年齢本」の基本的なロジックは、このような二分法だといえます。