※本稿は、齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)の一部を再編集したものです。
文章が上手な人は「構成力」がある
日本人として「文字を書く」ということの大切さについても、40歳の節目でしっかりと考えていくべきテーマだと思います。人生の折り返し地点を迎えた40代にとって、「読む力」も「書く力」もこれからますます社会から求められるはずです。
近年はチャットGPTのような生成AIが浸透していますので、「別に自分で書かなくてもいいじゃないか」と考えている人も中にはいるかもしれません。あるいは、書かなくていいとまで言わなくても「上手に書けなくたっていいでしょ」という人は多いのではないでしょうか。
しかし、それは「考える」という作業を人間が放棄することを意味しています。考え続けるということは、人間の知的活動で欠くべからざる重要な作業です。
頭がいい人がなぜ文章もうまいのか。それは一つには構成力があるからです。目の前にまっさらな原稿用紙を置かれて「さぁ、日本の少子化について思うことを30分で書きなさい」と言われたら、これまで少子化について多少なりとも考えてきたこと、実際に経験してきたこと、不思議に思ってきたことなどの情報を、制限時間の中で構築し、文字化する作業を強いられることになります。
その際、少子化問題について日頃から専門的に学んでいればかなり有利ですが、必ずしも特化した知識がなくても、自分なりに得てきた情報を再構成し、読みやすく組み立てて書くのが文章力というものです。
文章力は労働環境にも影響する
文章を書く能力が上達していくと、気持ちも楽になって日常からストレスが減っていきます。文章が上手であることは、実は心の安定にもつながるということです。
こんな話もあります。日本漢字能力検定協会が2022年に行った調査によると、部下や後輩が書いた文章にストレスを感じたことがある(「ややある」を含む)と回答した30歳以上の社員が84.5%に達し、その主な原因に「説明不足」「語彙や表現が合っていない」「文が無駄に長い」「筋道が立っていない」「主語がわからない」などが挙がったそうです。
おそらく「顧客ターゲットがあいまいだな」「データの出所がよくわからない」「この長い説明文は今回必要なの?」といったことでしょうか。本書の主な読者層である40代であるなら、管理職として思い当たる節があるのではないでしょうか。
さらに、上司から文章を指摘されることにストレスを感じている20代の社員も53%いるとのことですので、こうなると作文力が原因で日本中の職場がギスギスしているという話なのです。文章の技術力が企業の労働環境に影響し、ひいては日本経済を左右するということになりかねません。メールでの文章のやりとりがビジネスの中心になってきている現在、文章力は社会的に大きな課題であると言えます。