大きな社会不安もスキャンダルもない

8つ目の「大きな社会不安がない」も「真実」だ。今春、イスラエル・ガザ戦争をめぐり、コロンビア大学やハーバード大学など、各地の大学で反イスラエルデモが起こり、1000人単位の逮捕者が出ただけに、「社会不安があるのでは?」と感じる人もいるだろう。

だが、リクトマン教授が定義する「社会不安」はもっと大規模なものだ。1968年大統領選で民主党を敗北に押しやり、共和党のニクソン大統領候補に勝利をもたらすことになったベトナム反戦運動が好例だ。何百万人もの人々が路上を埋め尽くし、時には死者を伴う、「社会の安定」を揺るがすような全米規模の騒乱を指す。

今年8月19~22日にシカゴで開かれた民主党全国党大会に合わせ、当地で親パレスチナ派のデモが起こり、逮捕者も出たが、「ローカル」なレベルにとどまった。大学での親パレスチナデモも、60年代に全米の大学のキャンパスに吹き荒れたベトナム反戦運動には遠く及ばない。

「現政権に大きなスキャンダルがない」という9つ目のカギも「真実」だ。このカギはリクトマン教授のお気に入りだというが、ここで言う「スキャンダル・不祥事」とは、クリントン元大統領の女性スキャンダルなど、大統領自身に関するものだ。大統領の息子や兄弟のスキャンダルは含まれない。

リクトマン教授が「未定」とした2つのカギ

次に、「外交・軍事政策で大きな失敗がない」という10番目のカギは、先が読めないという戦争の性質上、「未定」だ。しかし、現段階では「真実でない」という答えに落ち着く可能性が高いという。その理由は、一向に終わりが見えないイスラエル・ガザ戦争にある。

「アメリカに直接的責任はない。だが、中東で起こっていることに巨費を投じてきたため、紛争と無関係ではない」。リクトマン教授は5日のライブ配信で、こう語っている。

イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスが停戦と人質解放で合意をみるのは容易ではない。だが、教授によれば、アイゼンハワー大統領は70年前、パレスチナ・イスラエル問題に軍事的解決という道はないと言った。「ネタニヤフ首相(の好戦性)がバイデン政権の足かせになっているのは、ある意味で皮肉な話だ」(リクトマン教授)。

一方、11番目の「外交・軍事政策で主要な成功を収めた」というカギも「未定」だが、「真実」に傾く可能性が高い。リクトマン教授がロシア・ウクライナ問題におけるバイデン大統領の役割を評価しているからだ。

まず、プーチン大統領のウクライナ征服、ことによっては世界大戦まで招きかねないロシアの動きを阻止したのは、「フランスのマクロン大統領でも、カナダのトルドー首相でもなく、バイデン大統領だった」と、教授は指摘する。西側諸国を結束させ、共和党の反対にもかかわらず、ウクライナを支援し続けたバイデン大統領あってこその、西側の対ロシア戦略なのだと。

それが、ウクライナによるロシアへの越境攻撃にもつながったと、教授は評価する。一時はウクライナへの支援疲れが見られたアメリカの有権者だが、最近の世論調査では、ウクライナ支援に賛同する人が大幅に増えている。バイデン大統領のウクライナ支援は、「(第二次世界大戦後の)米大統領による『最も重要な外交的・軍事的作戦の一つ』として歴史に残るだろう」と、リクトマン教授はライブで語っている。