まわりからの「警報」を見逃すな

マネジャーは自分が不必要に仕事を抱え込んでいることを認識していないかもしれない。だが、それを知らせる警報がある。「典型的な警報は、マネジャーが長時間働き、自分は職場に不可欠だと感じている一方で、部下たちはあまりやる気がなく、いつも定時に退社している状況だ」と、ウォーカーは言う。

マネジャーが部下たちは仕事に主体的に取り組まず、仕事のことを気にかけているのは自分だけだと感じている場合も要注意だ。部下が「これをお手伝いできてうれしいです」というような言い方をしたら、それはマネジャーが仕事を全部片づけていて、部下に権限を持たせていないしるしかもしれない。

完全主義者で、なにもかも自分でやるほうが楽だとか、自分のほうが部下よりうまくやれるなどと思っているマネジャーもいる。フェファーはこれを「自己高揚バイアス」と呼んでいる。部下に仕事を任せたら自分の重要性が減じると思っているマネジャーもいるし、自分に自信がなく、部下に見下されるのを恐れているマネジャーもいる。どれほど正確な自己認識を持っているマネジャーでも、自分はこうした偏見とは無縁だと思い込んではならないと、フェファーはアドバイスする。そんな思い込みを排し、偏見を修正するために何をすればよいか、先手を打って考えることが大切だ。ウォーカーは、偏った見方を捨てるのは極めて難しい場合があり、組織の文化がそれを助長することも多いと指摘する。

「みんなから頼りにされるエキスパートという立場を捨てるには、このうえなく健全な環境においてさえ、途方もなく大きな自信と大局観が必要だ」と、彼女は言う。「普通の会社ではなおさら難しい。普通の会社では、よいマネジャーであることは望ましいこととされるが、本当に高く評価されるのは、中核的成果を生み出すことだからだ」。だが、なにもかも自分でやることはできないと認めることは、権限委譲の重要な第一歩である。

権限委譲を妨げている要因を認識したら、当然踏み出すべき次の一歩は自分の行動を変えることだ。だが、現実にはほとんどのマネジャーが、何をどう変えればよいかわかっていない。

そこで、自分が何をしたかを日記につけてみることを彼は勧める。1週間もすればパターンが見えてくるだろう。「部下に任せられる付加価値の低い仕事のために多くの時間を費やしていることに、おそらく気づくはずだ」と、フェファーは言う。

過去に痛い目にあったために権限委譲を恐れているマネジャーもいる。仕事を任せるときは、必要なスキルを持っていて、その仕事をきちんとやり終える意欲のある人を選ぶことが大切だ。チームのすべてのメンバーになんらかの形の仕事を任せることができればしめたもの。組織の階層のできるだけ低いレベルの人々にまで権限を委譲できれば、マネジャーは時間的余裕ができ、すべてのメンバーの成長を手助けすることができる。