一刻も早く越前から離れたかった
このように紫式部は、越前で暮らし、父の世話をしながらも、都を懐かしがってばかりいたようだ。それから1年ほど、彼女は越前で暮らし続けるが、越前の風物を詠んだ歌はまったく残されていない。前出の倉本氏は「国内のあちこちに出かけることは、ほとんどなかったのであろう」と記している(前掲書)。
都にいたときは、友人と歌を詠み交わしもしたが、そういう記録も残っていない。淋しさを募らせるばかりだったのだろう。
だが、そんなふうに過ごし、厳しい冬を越えて長徳3年(997)の春を迎えたころ、遠縁で旧知の藤原宣孝(ドラマでは佐々木蔵之介が演じている)から、求婚の歌が届いた。そして、何度か歌を交わし合ったのちに、結婚の決心がついた紫式部は、その年末か、翌長徳4年(998)の春、父を残して単身、都へ帰った。
それまで独身を貫いてきた紫式部が、20歳程度は年長の宣孝の求婚を受け入れ、父を置いてまで帰京を急いだ。彼女にとって越前は、とにかく一刻も早く離れたい地だった、ということかもしれない。