JR東日本は今年5月、「みどりの窓口」の削減計画を凍結すると発表した。都心の主要駅から窓口がなくなった結果混乱が起きたためだが、何が問題だったのか。鉄道ジャーナリストの枝久保達也さんは「『えきねっと』の使いにくさが指摘されているが、原因はそれだけではない」という――。

※本稿は、枝久保達也『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

水郡線・常陸太田駅の改札口にあったみどりの窓口
水郡線・常陸太田駅旧改札口の「みどりの窓口」(2009年、画像=まも/PD-self/Wikimedia Commons

四半世紀もの歴史をもつSuica

JR東日本は2021年5月、チケットレス化・モバイル化を推進し、「シームレスでストレスフリーな移動」の実現を加速すると発表した。インターネットやスマートフォンからのきっぷ購入の利便性をさらに向上させ、駅の窓口や券売機に立ち寄ることなく乗車券が購入できるよう、乗車スタイルの変革を促すという。

JR東日本のチケットレス化・モバイル化の歴史は長い。モバイルSuicaの基礎技術検証が始まったのは、Suica開発のフィールド試験が完了し、実用化に向けて進みつつあった1999年だ。

モバイルSuicaの実用化に先がけて2002年7月に始まったのが、中央線の朝夕ラッシュ時に運行される「中央ライナー」のライナー券を携帯電話上で予約し、チケットレスで利用できるサービスだ。限定的なものではあるが、帰宅時間が直前までわからないビジネスパーソンが、出先から手軽に予約できるようになったのは大きな進歩だった。

モバイルSuicaは2006年1月、フィーチャーフォンの「おサイフケータイ」サービスとして誕生した。当初は携帯電話からの定期券購入、チャージ、履歴確認のみだったが、2008年3月に新幹線のチケットレスサービス「モバイルSuica特急券」が登場した。

iPhoneの「FeliCa」対応が普及を大きく後押し

JR東日本は2000年4月にインターネット電子モール「えきねっと」を開設し、翌2001年4月から乗車券・特急券の取り扱いを開始。2002年2月には、えきねっと登録者向けに携帯電話上で指定席特急券の予約が可能になり、2009年11月には携帯電話上でえきねっとの登録もできるようになった。

モバイルSuicaはフィーチャーフォンに加え、2011年7月にAndroid、2016年10月にiPhone、2018年5月にGooglePayに対応。とくに日本で高いシェアを持つiPhoneが、日本市場のニーズをくみ取ってSuica(FeliCa)に対応したのは大ニュースで、モバイルSuicaの普及を大きく後押ししたといえるだろう。

2019年1月にはチケットレスサービスに特化したスマホアプリ「えきねっとアプリ」がリリースされたが、一方で2020年3月にフィーチャーフォン向けモバイルSuica、モバイルSuica特急券がサービス終了。2021年3月には、えきねっと携帯電話サイトも終了するなど、スマホへのシフトが進んでいる。

そうしたなか、「自社新幹線のチケットレス利用率50%」達成の切り札として2020年3月にサービスを開始したのが、「新幹線eチケットサービス」だ。「えきねっと」で予約・購入時にICカード裏面に記載されたIDを入力し、そのICカードで新幹線の自動改札機をタッチすると、紐づいた乗車券の購入情報と照会し、通過できる仕組みだ。