「冷蔵庫にある材料で作った料理」

基本となるプラットフォームは、ホンダの小型車向けのものをベースとするが、前側はタイなどで販売される「シティ」、後ろ側はインドネシアなどで販売されている3列7人乗り小型SUV「BR-V」のものを組み合わせている。まさに「冷蔵庫にある材料で作った料理」といえる。

ただ既存の部品を流用することは、市販化された車両のノウハウが活用できることも意味する。そのため、最新のフィットやヴェゼルで培ったノウハウもつぎ込まれているという。

低価格の実現のため、製造コストを抑えるべく、仕様も割り切った。インド工場では、前輪駆動車のガソリン車しか生産していないため、ハイブリッド車や4WDの追加は、コスト高に直結する。そこで日本向けのWR-Vも、基本的な部分を共有した仕様のみとした。

もちろん、内外装やサスペンションなど専用化が必要なパーツを開発しているが、見えないパーツについては、工夫でコストを抑えている。

スタイリングはごつごつとしたクロカン風のマッチョなスタイリング
筆者撮影
スタイリングはごつごつとしたクロカン風のマッチョなスタイリング

さらに大きな力となったのが、人材だ。海外での開発、生産が生むメリットは、何も人件費の低減だけではない。成長市場が持つ若い力が大きな支えとなっているのだ。開発に携わったホンダの日本スタッフによれば、タイとインドの技術者の熱量の高さを強調する。

「タイ人のエンジニアは、若者が中心で、とにかく仕事熱心。価格を抑えるために、コストがかけられない状況を良く理解し、知恵で乗り切るアイデアを多く出してくれた。例えば、CVTのセッティングを担当したのもタイの若い技術者で、その巧みな味付けには、日本人スタッフも感心した」

インドで磨かれた性能

生産地であるインドについても、現地販売されるホンダ車の中で、「エレベイト」が最上級車に相当する上、自分たちが製造するクルマが、母国である日本で販売されるということに誇りを感じ、気合十分だという。このため、品質も非常に高いことを強調する。

もちろん、WR-Vは、開発段階より日本導入を前提としてきたため、単にお手頃な新興国向け車両を持ち込んだわけではない。むしろ、日本でも売られることが、開発と製造の現場にとって高いモチベーションとなったといえるようだ。

荷室は驚きの458L
筆者撮影
荷室は驚きの458L

興味深いのは、WR-Vの優れた基本性能は、インド市場で磨かれたということだ。開発時にインド事情を調査すべく、現地に出向いたところ、穴ぼこだらけの悪い道が多いだけでなく、牛が道路に寝そべっている風景をよく見かけた。クルマが緊急回避を試みるシーンは多かったという。

さらに現地のユーザーは、週末に遠くにある故郷に遊びに行くロングドライブが多いことも分かった。しかも、フル乗車で荷物を満載した状態である。