仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)――。
青い空の下で建物に囲まれてジャンプする人
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イントロダクション

一般に「仕事が忙しく、好きな本を読む時間がとれない」「スマホばかりを見て本を読まなくなった」といった悩みをもつ人は少なくない。

一方で、書籍売上は減っているとはいえ、自己啓発書やビジネスのノウハウ本を中心にベストセラーは頻発している。そこには労働時間や「働き方」以外の理由があるようだ。

本書では、当書タイトルにある問いの答えを探るために、日本における明治時代からの「仕事と読書」の歴史、人気の書籍ジャンルやベストセラー書籍の変遷などを分析しながら、労働や、現代特有の社会意識の問題点などを指摘している。

現代に生きるわれわれは、インターネットの普及などにより、情報が容易に手に入るようになったことから、「欲しい情報」以外の知識を「ノイズ」として除去する傾向にあるという。

著者は、1994年生まれの文芸評論家。『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(笠間書院)、『人生を狂わす名著50』(ライツ社)など多数の著書がある。

まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序.労働と読書は両立しない?
1.労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代
2.「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級―大正時代
3.戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中
4.「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代
5.司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代
6.女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代
7.行動と経済の時代への転換点―1990年代
8.仕事がアイデンティティになる社会―2000年代
9.読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代
最終.「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします

90年代以降失われた「社会を変えられる」感覚

仕事を頑張れば、日本が成長し、社会が変わる――高度経済成長期とは、このようなモデルだった。社会に個人が参加しているという感覚がその根幹にはあった。

しかし一方で、1990年代以降に起こった変化は、社会と自分を切断する。仕事を頑張っても、日本は成長しないし、社会は変わらない。現代の私たちはそのような実感を持っている人がほとんどではないだろうか。

90年代以降、ある意味〈経済の時代〉ともいえる社会情勢がやってきたからだ。経済は自分たちの手で変えられるものではなく、神の手によって大きな流れが生まれるものだ。つまり、自分たちが参加する前から、すでにそこには経済の大きな波がある。そして、その波にうまく乗ったものと、うまく乗れなかったものに分けられる。

自分が頑張っても、波の動きは変えられない。しかし、波にうまく乗れたかどうかで自分は変わる。つまり90年代の労働は、大きな波のなかで自分をどうコントロールして、波に乗るか、という感覚に支えられていた。