働きながら本を読む第一歩はノイズを受け入れること

欲しい情報以外の偶然性を含んだ展開には、インターネットでは出会いづらい。しばしば「新聞を毎日めくっていたころは自分の興味のないニュースも入ってきたが、インターネットを見るようになってからは自分の興味のないニュースは入ってこない」と述べる人を見かけるが、それもまた知識と情報の差異から来ている。

教養とは、本質的には、自分から離れたところにあるものに触れること。それは明日の自分に役立つ情報ではない。明日話す他者とのコミュニケーションに役立つ情報ではない。しかし自分から離れた存在に触れることを、私たちは本当にやめられるのだろうか?

三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)

たとえ入り口が何であれ、情報を得ているうちに、自分から遠く離れた他者の文脈に触れることはある。たとえば早送りで観たドラマをきっかけに、自分ではない誰かに感情移入するようになるかもしれない。たとえば自分の「推し」がきっかけで、他国の政治状況を知るかもしれない。

今の自分には関係のない、ノイズに、世界は溢れている。その気になれば、入り口は何であれ、今の自分にはノイズになってしまうような――他者の文脈に触れることは、生きていればいくらでもあるのだ。

大切なのは、他者の文脈をシャットアウトしないことだ。仕事のノイズになるような知識を、あえて受け入れる。仕事以外の文脈を思い出すこと。そのノイズを、受け入れること。それこそが、私たちが働きながら本を読む一歩なのではないだろうか。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

コメントby SERENDIP

アカデミズムの世界では、1990年代頃から「複雑系」や「全体論(ホリズム)」の考え方やアプローチが広く注目されるようになっている。これらのアプローチは、事象を「部分」に分けず、さまざまな要素の相互作用を重視して分析するものだが、ノイズは相互作用の一部であり、除去すべきではないとされる。本書で指摘されているような断片的情報の弊害もそのあたりにあると思われる。すなわち、ノイズを除去することで、システム全体を見渡す「メタ思考」が生まれにくくなる。大局的なものの見方をできない人が増えることで、社会の柔軟性がますます失われていくのではないだろうか。

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