複数の企業が絡むプロジェクトをまとめる

最初にすべきは、相手企業のキーパーソンと関係を構築することです。

会議に私が出ていくと、先方も高い役職の人が来ます。しかし、実際にはその下の役職にある人がプロジェクトを動かしている場合がほとんどです。

ここで、自分ではキーパーソンと直接やりとりをしてはいけません。部下を差し向け、相手との関係をつくってやることが重要です。

これまで当社では、海外企業との付き合いがほとんどありませんでした。状況を改善すべく、あるマーケティング課の部下に対し、新規5社と連絡を取って、人間関係を構築してこいと命じました。

でも、どうしても交渉がうまくいかないと部下は嘆いてきました。そこで、部下とともに私も台湾の企業を訪問することにしました。

先方の感触は良好。取締役だった私が出向いたことで、当社の本気度を理解してくれたのでしょう。そして、担当者は私に向かって言いました。「これからはあなたと話をすればいいのか」と。

そのとき、経済産業省時代のことを思い出しました。当時、尊敬していた上司は、一緒に相手先へ行ってもほとんど口をはさまず、私に任せてくれました。そのおかげで仕事にもやる気が出たのです。

相手先には「いや、彼と話をしてください。私はディシジョンメーカーでしかありません。彼はこの分野のスペシャリストですから、彼に聞けば何でもわかります」と返しました。

帰国後、部下の態度はがらっと変わりました。私の前で緊張もしなくなり、自分の意見を述べてくれるようになったのです。こうした関係になれば占めたもの、お互いにアイデアを出し合い、プロジェクトはうまく回り始めました。

部下の立場から言えば、私の使い方がわかってきたのでしょう。「この人をここで連れていけば、突破口が開ける」と。社長や取締役の仕事は、使ってもらわなければ活きないサービス業みたいなものだと思っています。

複数の企業が絡む場合も、社内間のプロジェクトでも、基本的には同じです。奔走する現場社員が、いかに気持ちよく仕事ができるか。これにつきます。上司は、そのお膳立てをすればいいのです。

上司が築いてきた外部のネットワークが役に立つこともあるでしょう。私の場合、前職で得た人脈を大切にしています。

特に経済産業省のときの同期は、東京では課長補佐として、地方では部長・課長として第一線で活躍しています。このようなネットワークに電話やメールで容易にアクセスすることができ、核心に近い情報を得られることが経営判断に大いに役立っているのも事実です。リーダーにとって、人脈のメンテナンスも貴重な仕事のひとつでしょう。

※すべて雑誌掲載当時

ダントーホールディングス社長 原口博光
1978年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、経済産業省入省。IT企業監査役を経て、2008年ダントーホールディングス入社。10年、取締役。11年3月30日より社長に就任。
(構成=小檜山 想 撮影=上飯坂 真、太田 亨、市来朋久)
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