効果的なフィードバックの条件とは?

しかし実はフィードバックは、ただ与えればいいというわけではありません。次の2つの研究を見てみましょう。まず1つ目は、約12分間、足し算課題を行う、というタスクを5回繰り返すという実験を行った研究です。

この研究の実験条件はフィードバックの有無と、実験者から与えられる目標の難易度で4つに分けられていました。つまり、

「難しい目標でフィードバックがある条件」
「難しい目標でフィードバックがない条件」
「簡単な目標でフィードバックがある条件」
「簡単な目標でフィードバックがない条件」

の4つです。実験の結果、足し算課題の成績がよかったのは、難しい目標が与えられた条件のほうでした。しかしそこには、フィードバックの有無による成績の差は見られなかったのです。

一方、別の研究(図表3)では、複雑な計算課題を16セッション実行するという実験を行いました。

参加者は1セッション(5分間)の計算が終わるごとに成績のフィードバックがある条件と、ない条件のどちらかに振り分けられており、どちらの条件でも、各セッションが始まる前と終わった後に目標を記入させられていました。

この実験の結果は図表3の通りで、後半8セッションの成績に差が見られ、フィードバックがある条件のほうが高い点数となっていました。また、フィードバックがある条件のほうが、後半8セッションで高い目標を設定していたこともわかっています。

片方の研究ではフィードバックは効果がなく、片方の研究では効果が出ています。しかも実はこの2つの研究は同じ著者によって、ほぼ同時期に行われたものなのです。違いはいったい、どこから来ているのでしょうか?

「見えない敵」と戦い続けることは、誰にとっても難しい

その答えは、「フィードバックで得られた情報を目標設定に生かすことができたかどうか」です。

山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)
山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)

1つ目の研究では、目標は実験者によって決められていたため、各人のフィードバックと目標が連動することはありませんでした。2つ目の研究では、被験者はフィードバックで得られた情報を基に、自分で目標を調整することができました。

つまり、フィードバックの有無が重要なのではなく、フィードバックの内容を受け止め、それを目標に反映させることでパフォーマンスが向上するのです。2つ目の研究において、パフォーマンスに差が出たセッションでは、設定された目標の高さにも違いがあったことがこれを裏付けています。

見えない敵と戦い続けるのは、誰にとっても難しいことです。「自分の頑張り」を自分自身で適切に評価できなくなったとき、楽しかったはずのことが「つらい努力」に変わります。

これを乗り越えて努力を続け、成長していくためには、どんな形であってもフィードバックと目標が必要なようです。何かを継続しようとするときには、自分の頑張りを目に見える形にしてみましょう。そしてそれを基に、明日の目標を立ててみましょう。

※参考文献
・Choudhry, R. M.(2014) “Behavior-based safety on construction sites: A case studyAccident Analysis & Prevention, vol. 70, pp. 14–23.
・Liao, P., Jiang, L., Liu, B., Chen, C., Fang, D., Rao, P., and Zhang, M. (2014) “A Cognitive Perspective on the Safety Communication Factors _at A_ect Worker BehaviorJournal of Building Construction and Planning Research, vol. 2(3), pp. 183–197.
・Locke, E. A., and Bryan, J. F.(1969) “Knowledge of score and goal level as determinants of work rateJournal of Applied Psychology, vol. 53(1, Pt.1), pp. 59–65.
・Locke, E. A., and Bryan, J. F. (1968) “Goal-Setting as a Determinant of the Effect of Knowledge of Score on PerformanceThe American Journal of Psychology, vol. 81(3), pp. 398–406.

(イラストレーター=芦野公平 図版制作=キャップス)
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