「現場で率先して働く人を経営者にすればいい」

どうして悪いのですか、なぜ、齊藤さんが反省しなくてはならないのですか。

わたしが訊ねたら、齊藤さんはこう答えた。

「500億という規模が大きすぎたんです。あまりにも規模が大きいとなかなか経営はできないんです。後任のふたりがいけないのではなく、私の判断が間違いだった。

会社が500億の規模になると、知らず知らずのうちに社員は安心して会社に寄りかかってしまう。売り上げが減ったのは危機感の欠如です。漫然と業務をこなしていて、売り上げが伸びるはずはない。

そこでゴルフ場のことを思い出しました。ゴルフ場を始めた時、私は支配人をシャトレーゼから呼んだのです。それもゴルフをやらない人間にしました。従来からゴルフ場にいる支配人は背広を着て、ああしろこうしろって威張ることが仕事だと思っています。それでは再建はできない。

だが、ゴルフを知らないシャトレーゼ出身者であれば自分で仕事を見つけてお客さんにサービスをします。お客さんを迎えて、バッグを車から下ろして、昼間になるとレストランで手伝って、夕方またお見送りして、率先して働きます。それが経営者なんです。会社は小さな単位にして、現場で率先して働く人を経営者にすればいい。そうすれば自然に売り上げは上がる」

客、社員、取引先に喜んでもらうために働く人

「500億のシャトレーゼをやらせたらうまくいかないけれど、5億から6億くらいの規模のゴルフ場なら誰でもできる。これは、家業的な企業経営をすればいいんだと思ったのです」

そうして、シャトレーゼは伸びていった。大企業病にはならず現在では約1500億円の売り上げを誇る会社になっている。

シャトレーゼ創業者の齊藤寛会長
撮影=プレジデントオンライン編集部

齊藤さんは正義感のある人だった。客、社員、取引先に喜んでもらうために働いた。

そんな齊藤さんは明晰だった。1時間半のインタビューの間、同じ話を繰り返すということをしなかった。

人は年齢を重ねたら、誰であっても同じ話をしてしまう。だが、彼はそうではなかった。

ただ……。

今になって思い返せば、彼がひとつだけ繰り返した言葉があった。

「80歳になってからゴルフのスイングを改造した。そうしたら、ボールが今までよりもぐーんと飛ぶようになった」

そう言った後、「野地さん、今度、東京国際ゴルフ倶楽部(シャトレーゼのゴルフ場)でやりましょう」と誘ってくれた。

それは楽しそうだなと思ったが、結局、実現しなかった。わたしは齊藤さんのスイングを見ることができなかった。ぐーんと飛ぶボールを見ることもできなかった。

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