掃除スタッフの「ミッキーアート」はどうやって生まれたのか
ディズニーでは、「WHY?(常に現状を疑え)」という問いかけの言葉が本当によく使われます。この根本にあるのは、ウォルト・ディズニーの「ディズニーランドは永遠に未完成」という考えです。「仕事は永遠に100%完成することはない」ということなのです。
この考え方がきっかけで、組織改革がおこなわれたり、新しい商品や新しいサービスが誕生したりすることもよくありました。
ディズニーのパークでは、掃除を担当するスタッフを「カストーディアルキャスト」と呼びます。
このキャストが、地面に溜まった雨水を絵具代わりに、ほうきを筆代わりにして、ディズニーキャラクターの絵を地面に描く「カストーディアルアート」は、今ではパークの名物です。
このアート活動のきっかけになったのが、秋によくおこなわれていた落ち葉の掃除でした。パーク内の落ち葉を効率良く掃除する方法は、マニュアルに記載されています。
柄の長いブラシを使い、外側から内側へ、自分自身が左回りに円を描くように動きながら、落ち葉を集めていくのです。この方法で落ち葉を集めると、落ち葉の山が3つできます。
ある日、キャストたちの間で「あれ? これミッキーの顔と2つの耳に見えない? なぜ、今まで気づかなかったんだろう?」という話になりました。3つの落ち葉の山が、ミッキーマウスの顔の形に見えたのです。
そこで、お客様に“落ち葉のミッキー”を見せたところ、とても喜ばれました。キャストの「なぜ、お客様がハッピーになるちょっとしたことをしていなかったんだろう?」という話から、やがてカストーディアルキャストが地面に描く“アート”へと発展していったのです。
「ディズニーランドは永遠に未完成」から学べること
掃除をしながらお客様にアートを見せるのは、働く側にとっては手間のかかることです。
でも、ディズニーには「仕事は永遠に未完成だから、もっと完成に近づけよう、そのためにまだできることがある」という考え方が組織に浸透しており、お客様に喜んでもらえる場があります。
キャストにとっては、そのひと手間は「かける価値」があることなのです。「もっと良くできないかな?」や「このままでいいの?」などの「WHY」を常に問い続けることは、慣れるまでは実に体力、気力のいることです。
しかし、1人ひとりがこうした意識で行動し、習慣化すると、これが組織の「当たり前」になり、会社のサービスのレベルが上がっていきます。そうした質の高い仕事の中にこそ、やりがいや、次につながる大きなチャンスがあるのだと私は思います。
まずは、「なぜ?」「もっとできるんじゃない?」というメンバーのアイデアから始まる行動をリーダーがうながし、実践できる職場にしていってほしいと思います。