アドバイスはお客の目線にたっているのか

メンバーへのアドバイスは、ゲスト目線や相手の視点を心がけましょう。

ただ、ていねいにアドバイスをしても、それがメンバーに腹落ちしていなければ、アドバイス通りには動いてくれません。前向きに返事をしていたとしても、実際に動けていなければ、リーダーのアドバイスは伝わっていないということ。

では、どんなアドバイスをすれば、相手が自然と動けるようになるのでしょう。コミュニケーションにおける大切なポイントは、ゲスト(お客様)の視点に立てるエピソードや自分が体験したエピソードをもとにアドバイスをすることです。

理屈を話しただけでは、自分の身近な問題としてとらえられないものです。エピソードをまじえて伝えると、場面がリアルに浮かび、メンバーの心に強く残ります。

私がディズニーランドのショップで働いていたとき、ゲストが店に入って一番に目につくところに、ミッキーマウスとミニーマウスの半円形の800円ほどのポーチが置かれていました。けっして高価でも、豪華でもなく、正直イケてない商品でした。

ゲストはこの商品を手に取るのですが、実際に購入する人はほとんどいません。さらにキャストが商品をきれいに並べ直さなければならないので、手間もかかりました。

そのときの私は「ゲストが店に入って一番に目につくところには、一番売れる商品を置くのがいい。そうすればゲストも喜ぶし、店の売上も上がって、みんなハッピーになる」と考えていたので、一番人気がある1600円ほどの光り輝くディズニーグッズに置き換えました。

当然、よく売れ、店の売上、ゲストの満足度も上がったように思えました。

ウォルト・ディズニー・スタジオの入り口
写真=iStock.com/Razvan
※写真はイメージです

一番売れるグッズよりも「ミッキーマウス」が大事なワケ

ところが、リーダーがその結果を見て、私に言ったのです。「あなたは仕事がわかっていないね」と。

さらにこう言いました。「あなたはディズニーランドが自分の職場だから、毎日当たり前にここに来ている。けれど、来園されるゲストは、半年前、1年前から計画を立てて、ずっと前から楽しみにして、ここに来ているんじゃないか? そういうゲストが、店に入って最初に見たい、感じたいものは何だと思う?」と。

リーダーのこの言葉には衝撃を受けました。自分がディズニーランドを訪れるまでのゲストの生活を、リアルに想像できていないことに気づかされたからです。

ミッキーマウスとミニーマウスは、ディズニーのスター。もともと置いていたポーチは、ディズニーランドを象徴するような商品です。リーダーは私に言いました。

「この商品を店頭に置くことで、来店してくださるゲスト1人ひとりに、あなたに代わって『ディズニーランドによく来てくれたね』とあいさつをしてくれているんだよ。ゲストはまず、その気持ちが一番ほしいんだよ。商品はその次なんだ」と。

グッズの1つひとつにメッセージがある。ただ売れればいいという考えで店作りをしてはいけない。ゲストの本心をもとに、サービスをしなければならないと思った出来事でした。