痴漢犯と被害者が結ばれるテレビドラマ?

検察官は、育ちも試験の成績も良さそうな、背の高い青年だ。被告人質問で、自分の感想、意見を大上段からぶつけまくった。裁判官は止めなかった。

検察官「被害者が優しいんですか! さらに、結婚したい? なんでそうなるんですかっ!」
被告人「(消え入るように)好きになって……」
検察官「痴漢してくる人と、そんなことありますかっ!」
被告人「前に1回、テレビで……」
検察官「それテレビでしょ! テレビでやってることすべて本当じゃないでしょ!」

痴漢犯と恋に落ち、結ばれた、そんなテレビドラマでもあったんだろうか。ちょっと信じ難いが。

検察官「同じ人からこれだけ、もう、その気持ち、分かりますかっ! 絶対に分かりませんあなたにはっ! だけども、分かろうとする努力はヤメちゃいけない!」
被告人「(消え入るように)そうです……」
検察官「謝罪文、受け取らないのは当然のことと思いますよっ! 犯人から、好きになった、結婚したい、そんなことあるわけないじゃないですかっ!」

検察官は厳しく「懲役1年」を求刑

被告人は小さくなり、「今はそのことが分かり反省している」という趣旨のことをつぶやいた。

検察官「私は一切っ、信じることができないっ! だけども、一生かけて償いなさい。それがあなたのケジメじゃないですかっ!」

論告・求刑で、検察官はこう述べた。

検察官「執行猶予付きなどという寛刑を与えるべきでなく、即刻矯正施設へ収容するべきですっ! (迷惑条例違反の)最長期間である懲役1年に処するを相当と思料しますっ!」

こんな激しい調子は珍しい。罰金前科1犯のみなら、相場的に判決は執行猶予で決まりだ。がっちり脅して再犯を防がねば、そういうことなのだろう。

弁護人の最終弁論が始まったところで、私はそっと退出した。間もなく別の法廷で、駐車監視員2人に対する「公務執行妨害」の判決があるのだ。

約2週間後、本件「迷惑条例違反」の判決を傍聴した。被告人は、やはり手錠と腰縄につながれ、トレーニングウェアの姿で入廷した。背が丸い。法廷中央、証言台のところに被告人を立たせ、裁判官が判決を言い渡した。

裁判官「主文。被告人を懲役1年に処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する。その猶予の期間中、被告人を保護観察に付する」