「結婚して都落ちした、と思われたくない」

それが、「せっかくここまでがんばって手に入れた生活を手放したくない」という思いだ。

婚活中のキャリア女性の多くが、「結婚をしても、生活レベルを変えたくない」あるいは「生活レベルを下げたくない」と考えるのは無理もない。住む場所もキャリアも、自分で努力して手に入れたものだ。結婚したからといって、簡単に手放せるものではない。

しかし、職場へのアクセスがよく、いまの生活スタイルをキープできる住まいは、港区以外にもあるはずだ。

そういうと、T子さんの口から「結婚して都落ちした、と思われたくないのかもしれません」という本音がぽろりとこぼれた。

「誰がそんなことをいうのですか」と問うと、具体的な人物は浮かばない。それもそのはず。T子さんにそんな言葉を投げる人物は、T子さん自身しかいない。

T子さんは、同じような境遇の相手に心の中で「都落ち」とつぶやいてきたのだろう。自分では意識しないうちに。

「港区在住」のかわりにリストに加えたもの

ちょうどその頃、T子さんの婚活仲間のひとりから、「結婚を決めた」と報告があったという。話を聞くと、「こだわりを捨てたら、理想の人と出会えた」とのことだった。「どんなこだわりを捨てたの?」というT子さんの質問に、返ってきたのは「年齢と住所」という答えだった。T子さんと同じく「港区在住」にこだわっていた彼女がパートナーと暮らすことになるのは、港区ではない東京近郊の街。会社へのアクセスも便利で、緑の多い住宅地だという。

その後、T子さんは「理想の人リスト」から「港区在住」という条件を消した。

「それよりも大事なことがあると気づきました」とT子さんはいう。T子さんが新たに挙げた条件は、「年収」「仕事の向き合い方」それに「趣味を一緒に楽しめること」「食の好みが合うこと」だった。住んでいる場所は、条件には入れなかった。その代わりに、「どこに住むかを一緒に相談できること」をリストに入れた。

自分に向き合い、より深まった理想の人をひたすらイメージングしたT子さんは、その3カ月後に理想どおりの人と出会い、その半年後に結婚をした。彼は千葉県に住んでいたが、T子さんはもう気にしていなかった。彼が暮らすマンションは、最寄り駅から徒歩10分以内の立地にあり、スーパーも近い。T子さんの職場へのアクセスもいい。広さにも余裕があるので、T子さんは迷わず彼のマンションに引っ越した。

「むしろ、港区に住んでいた頃より便利ですし幸せです」とT子さんは嬉しそうに語ってくれた。