役所ごとの利権が消滅しつつある

それを論じるに当たっては、政治や行政改革で大きな地殻変動があったことを、まず取り上げる必要がある。端的に言えば、ごく一部を除き、各省の力学を論じる必要性が非常に薄れたということである。

天下り斡旋の禁止、規制緩和、外郭団体の改革などで、役所毎の利権が消滅しつつあるのが最大の理由だ。2023年は久々に天下りが大きな話題となった。国土交通省の旧運輸省系官僚の天下りが世間を騒がせた。ただ、あの種の役所絡みの利権が残っているのは珍しく、どこの役所でも組織ぐるみの利権は姿を消しつつある。そのため、組織をあげて利権を守るために政治家や政権与党や官邸を支えるといったことは、もはや起こりにくい状況になっている。

個々の官僚にしても事情は同じだ。組織のために働いたとしても、何か見返りがあるわけでもない。首尾良く官邸に入り込んだとしても、天下り先もなければ、出世を見込めるわけでもなければ、わざわざ出身省庁に忠誠を尽くす必要などないだろう。

屋外の階段を上るビジネスマンの足元
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首相・官邸に権力が集中するようになった

二つ目は、政治主導システムで官邸が大きな力を持つようになったことだ。小選挙区制度と政治主導システムの導入によって、官僚だけでなく、かつては総理や大臣でさえ一目置いた族議員も姿を消した。小選挙区制度では党首が誰かによって選挙結果はオセロのように入れ変わるし、公認するかどうかは党首と蜜月関係にある幹事長の意向次第。いくら実力者の族議員といえども、党首である首相には逆らえない。選挙結果や派閥に依存するとはいえ、自民党総裁でもある首相・官邸に権力が集中するようになった。

この二つの大きな地殻変動の結果、霞が関の権力構造にどういう変化が生じたか?

官邸と距離の近い者が力を持つようになった。財務省や経済産業省(経産省)、外務省といった有力官庁は首相秘書官を出すなど、従来から官邸との距離が近かったが、その性格は大きく変化している。かつて各省は官邸の動向を探るために首相秘書官を出していると言われたが、今現在は、首相や官邸の意向を素早く捉えて忖度することに必死だ。立場が完全に逆転したのである。その結果、もともと官邸との距離が近かった役所だけでなく、個人的に関係を築いてきた者が大きな権限を握るように変化しつつある。