長期の巨大プロジェクトでチームをどうマネジメントしたか

この中で内容についての言及は(2)を除いた3つ。

(1)は必ずしもスーパーヒーロー映画の経験のない監督でも、大きな予算の映画を手掛けたことのない監督でも、世界観のはっきりしている監督や俳優を起用するというやり方です。

(3)もコンテンツについての言及で、マーベル映画は前作と有機的に連なりながらも違いがあるという点です(記事が書かれてから3年が過ぎた2022年に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』までこうした原則は続いています)。

脚本を分析してみると、互いに異なる感情的なトーンやビジュアルイメージを描こうとしています。しかし、こうした戦略は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』では無残にも失敗しており、かなり長い間新作が出なかったうえに(シリーズの伝統に保守的な)ファンたちの多いシリーズは、新しいものを試みようとすると抵抗にあいやすいのです。

(4)は特典映像やレファレンスについての言及です。しかし、(2)の「核心チームがもたらす安定感を利用する」はチームの構成についての話で、連続性がありながらも独立的で巨大なチームをどのように組織するかの問題を扱っています。

「新しい人材と意見とアイディアのバランスをとるために、マーベルは次の映画制作に入るときに、前編で一緒に働いていた人たちのうちの数人をそのまま採用した」(前出『ハーバード・ビジネス・レビュー』より)

既存メンバーを残すことは安定感をもたらす

このようにして維持される核心的なメンバーは、新たにチームに合流した人たちにとっては「一緒にやっていきたい共同体」という感覚をもたらしてくれます。核心チームがもたらす安定感は、イノベーションをサポートもしてくれます(そろそろあなたは、自分の所属している組織はマーベルみたいなところじゃないと抗議したくなっているかもしれません。どんな組織であれ、核心チームと呼ばれる人たちは先輩風を吹かせるものです)。

イ・ダヘ『仕事帰りの心 私が私らしく働き続けるために』(かんき出版)
イ・ダヘ『仕事帰りの心 私が私らしく働き続けるために』(かんき出版)

この記事では、UEFAチャンピオンズリーグの最上位レベルのサッカークラブもまた、同じ方法をとっていると説明しています。2008年から2012年までトップクラスを誇っていたバルセロナの場合、自社クラブのアカデミーで少年スター選手を育て続けることで選手を輩出し続け、核心選手層をキープすると同時に新たなスター選手の導入にも積極的だったというわけです。

お互いにまったく知らない人同士で成り立っているチームでは、新たなアイディアではなく新たに適応するのに時間がかかったり、衝突が起きたりします。すっかり慣れ合いになった人たちからは新しいアイディアは出てきません。そのため、この中でバランスをとるために社内外の人たちでチームを構成し、アップデートしていくのです。

大ヒットの後続作品の足を引っ張らないためには、これに勝る方法はないでしょう。同時に、これは映画制作に限った話ではありません。

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