どうすれば自分の生活に偶然性を取り入れられるか

TIME SMART お金と時間の科学』(アシュリー・ウィランズ著、柴田裕之訳、東洋経済新報社)という本におもしろいエピソードがでてきます。

時間に追われて暮らしていたモニカは、時間管理についての自己啓発書をいくつか読んでから、「断る練習をせよ」というアドバイスに影響を受けました。そこで、たいていのことは断ろうと実行に移してみるのですが、心から付き合ってみたいと思う人たちからの誘いを断ってまで、いざ自分の時間を確保してみるとなんとなく後味が悪い。その後、アドリブ演技のクラスをとってから、自分の「断る」ルールを修正しますが、そのクラスでは極端にすべてに「YES」と言うトレーニングをさせられます。

モニカは自分の暮らしに即興性と偶然性を望み、自分に何かを望む人たちからの会いたいというリクエストをまずは一度すべて承諾して、それ以上の要求については水曜日に限っては許容するということにしたのです。

あらゆる物事を最短距離でこなすことが可能になった

予測不可能な隙間時間を許さず、10分単位で時間管理をする人も大勢います。計画がないと時間の無駄遣いになってしまうからです。時間管理のみならず、あらゆる面で「最短距離」を優先しようという考え方はめずらしいものではありません。

測定技術が発達して、いざとなればなんだって測定できる時代です。道を探すときは地図アプリの画面だけを見て歩く。文化的なイベントもすべて誰かが選んでおいたリストをチェックする。本を購入するときはインターネット書店のキュレーションされた画面の中から選ぶか、誰かの推薦を参考にする。リアル書店でも誰かが陳列しておいた本を見るのだから同じではあるものの、露出している本の種類も数も桁が違います。

書店に積まれた本
写真=iStock.com/Svetlanais
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関心のある分野の本ではないものの、存在すら知らなかった本、偶然そこに置かれている本を手にして選ぶことは、オンライン書店ではなかなか期待できません。地図アプリが教えてくれる道だけを歩いていけば、ふと迷い込んだ道でお気に入りのお店を見つけるような偶然もなかなか起こりません。

もちろん、そうした迷う労苦や無駄を減らすための生産性ツールの発展はメリットですから、今になって文明の利器を諦めろという話ではありません。ただ、偶然が入り込む余地をつくっておきましょうと言いたいのです。