日本と違い定期昇給も退職金もない

そうした職務スタイルである理由は、一般的に欧米の企業では、職務を特定の『役割』と見なし、その役割に適したスキルを持つ人材を採用する「ジョブ型」の雇用制度を採用しているためです。このシステムでは、日本企業のように会社がキャリアを決定するのではなく、個人が自分のキャリアパスを自主的に計画できます。

そのため、出世を望む場合、自分で進むべき道を探し、適切なポジションに応募できるのです。一方で、現在の職位に満足していれば、そのまま続けることも可能です。さらに、異動や転勤は強制されず、自由に選択できます。転勤を希望するなら、転勤可能な職を選択すればよいのです。スウェーデンもこのジョブ型制度を採用しているため、多くの人が自分に合ったキャリアパスを設計でき、ワーク・ライフ・バランスの取れた生活を実現できています。

しかし、このシステムには欠点も存在します。日本の企業のように会社の決定や年功序列で昇進や給与アップが保証されるわけではありません。そのため、自分でキャリアを設計できなければ、同じ職位に長く留まり、給与の上昇も限られる可能性があります。

また、キャリア志向が強い人や高収入をめざす人は、2年から3年おきに頻繁に職を変えることが多いため、業務知識の蓄積が難しくなります。さらに、退職金制度もないため、定年退職後の計画も個人の責任です。しかし、自分でキャリアをうまく設計できる人にとっては、ワーク・ライフ・バランスの取れた働き方ができるのです。

露出したコンクリートの床とたくさんの植物を備えたモダンなスタイルのオフィス
写真=iStock.com/mesh cube
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高い幸福度の一因である「ジョブ型雇用」

最近、日本でも北欧式の働き方を導入する企業が増えてきています。たとえば、IT企業のサイボウズ社は、2007年にライフステージに応じて働き方を選べる人事制度を導入しました。2018年には、「働き方宣言制度」という新しい人事制度を開始し、各社員が自分の働き方を自由に定義できるようになりました。

同社によると、この取り組みの結果、サイボウズ社の離職率は3%前後に低下し、売上高は年々増加しています。しかし、スウェーデンと比較すると、日本ではこうした個々の働き方を広範囲に認める企業は少ない状況となっています。

もちろん、北欧型の職場スタイルが必ずしもベストというわけではありません。ただ、北欧諸国では個人の尊重が重要視され、さらに、ジョブ型の雇用制度であるため、個人は自分に合った働き方を実現できています。実際に、ワーク・ライフ・バランスを保ち、家族との時間を重視し、仕事にも満足している知人は多くいます。

こうしたバランスの取れた働き方は、家族との時間を増やすだけでなく、職場での信頼感や安心感も高めます。これが社会全体の信頼感の向上に貢献し、北欧諸国が世界でも幸福度が高い国々として知られる一因にもなっています。