※本稿は、原田曜平『「シニア」でくくるな! “壁”は年齢ではなくデジタル』(日経BP)の一部を再編集したものです。
独自調査で見えてきた高齢者の「現在」の実態
高齢者マーケティングでは、高齢者をひとくくりにせず、世代論に基づき、各世代の特徴やトレンド、考え方、価値観などを踏まえた上で、施策を考えることが重要である。世代論をベースにすれば、彼ら、彼女らがどのような時代を生きてきたかが分かり、志向性も把握できるため、どんな商品・サービス設計にすればよいか、どういった言葉や表現が響くかがある程度想定でき、マーケティング戦略づくりに大いに役立つ。
ただし、世代論だけでは、高齢者マーケティングを行う上での基礎的な材料としては不十分だ。世代論は各世代が生きてきた時代を検証し、どのような考え方をする傾向があるかを見るための切り口であり、いってみれば「過去」から得られる情報に過ぎないからだ。
必要なのは、「現在」の実態だ。だが、高齢者マーケティングのための実態を調査するのは、インターネット調査が主流となっている現代では難しい。
今回行った調査の対象は60歳以上の男女とし、60代、70代、80代以上の自立(介護が不要な人)、非自立(介護が必要な人)を、クラスターごとに50人前後~60人をバランスよく抽出し、640人から有効回答を得た。
調査方法は、家族、介護スタッフ、調査員が本人から聴取して代理回答する聞き取り調査と、本人自身がWeb上のアンケートにアクセスして回答する2つの方法を採用した。インターネット調査に加え、面談調査も行うことによって、ネット利用者に偏ることなく、ネットにアクセスできない高齢者も含めた全体の実態を把握できる、希少価値の高い調査となっている。
この調査によって、従来は難しかった高齢者の生活やインサイト、デジタルデバイス(本人保有のPCやタブレット端末、スマートフォン)やメディアの利用と視聴状況、各種広告への接触状況、消費実態の把握が可能になった。
65歳以上の高齢者がいる世帯数は右肩上がり
調査結果を解説する前に、まず公的データによる高齢者世帯の動向を押さえておきたい。
「令和5年版高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は、2021年時点で、世帯数が2580万9千世帯と、全世帯(5191万4千世帯)の49.7%を占めている。第1章で触れたように総人口に占める高齢者の割合は約3割だったが、世帯別では既に半数を占めている。