機嫌が悪いとき、心は何かに囚われている

そこで、この「揺らがず囚われず」の心の状態を考えたとき、「機嫌」という言葉を思いついたのだ。揺らぎ囚われているときの心の状態をストレス以外に何かうまい表現はないかと考えあぐねていたときに、そうだ、それこそが「不機嫌」だと気づいたのだ。

機嫌が悪いときの心は、何かに揺らぎ、何かに囚われているのだとわかった。逆に、その視点で考えてみると「機嫌がいい」ごきげんな心は、まさに揺らぎや囚われのないときなのだ。そこで、心の状態を「機嫌」ととらえて、「機嫌がいい」状態を「ごきげん」、「機嫌が悪い」状態を「不機嫌」と表現するようになった。

そのことにより、日常でのみなさんの理解が急激に高まった。「機嫌」は日本人には極めてとらえやすい概念と言葉だったのだ。今、機嫌悪くないですか? 機嫌がいいですね。あの人、不機嫌ですね。今日もごきげんでいきましょう。などなどだ。「機嫌がいい」ごきげんな心の状態には、いろいろなものがふくまれているが一括でこれで済む。

わくわくしているのも「ごきげん」だが、リラックスしているのも「ごきげん」だし、楽しいのも「ごきげん」だが、安心も「ごきげん」だ。

一方、「不機嫌」も同様だ。「不機嫌」にもいろいろあるが、私たち日本人は、イライラも、怒りも、落ち込みも、がっかりも、不安も、心配も、すべて「不機嫌」で事足りてしまう。

便利な言葉が日本には存在していて、これを使わない手はないと、わたしのメンタルトレーニングでは大いに利用させてもらい、たくさんの方も把握しやすくなっている。

人間の心の状態を図に表すと、以下のようになる。人には心の状態が必ず存在していて、その状態を示す矢印があるということだ。

人間の心の状態を示す矢印
イラスト=大野文彰

ごきげんの究極としての「ゾーン」状態

程度の差はあれ、この矢印は左右どちらかにしか傾かない。左に傾いていけば、何かに揺らぎ囚われてストレスを感じている状態。それが「不機嫌」「機嫌が悪い」感じだ。ノンフロー(Non Flow)な状態。この心の状態がひどくなってさらに左に傾き、戻れなくなった状態がうつ状態だ。心の病気の状態と表現できる。

一方、右に傾くと「機嫌がいい」状態だ。揺らがず囚われず、ごきげんで自然体だ。すなわち、フローな状態。チクセントミハイ教授のよりも範囲が広く、ライトな状態もふくんでいる。

その先の究極に「ゾーン」の状態がある。ボールが止まって見えるとか、一挙手一投足がスローモーションのようにとらえられるような究極の状態だ。スポーツでは、ときに体験可能な究極だ。『スラムダンク』でいえば、山王工業戦で湘北の三井くんがスリーポイントをバンバン決めて追いついていくときの感じだ。

ただし、日常やビジネスもゾーンである必要はない。とにかく、右のほうに心が傾いている状態、「機嫌がいい」状態を仕事の中で増やしていく。自分の機嫌は自分でとって、「機嫌がいい」状態で、せっかくやるなら、どうせやるなら、やっていけるスキルを有してほしいというのが本書の狙いにほかならない。