「ユダヤの民というものはなく、ユダヤ国民はなく…」

――ですがもしも、この七十万のユダヤ人が生きのびることができれば、世界のユダヤ人も彼らとともに生きのび、人びとの自由は未来にわたって保障されるでしょう。けれどもしも七十万が生き残り得なかったら、今後いく世紀にもわたってユダヤの民というものはなく、ユダヤ国民はなく、私たちのすべての希望が根絶されるだろうことは、殆ど疑いをいれません。

数箇月のうちに、と彼女は聴衆に向かっていった。

「ユダヤ人国家がパレスチナに存在することになるでしょう。その誕生のために、私たちは戦います。これは当然のことです。そのために、私たちは血をもって支払うでしょう。これは当りまえのことです。私たちのうちの最良の人びとが、死んでゆくでしょう。それは確実です。でもそれと同じように確実なのは、侵略者の数がどれほど夥しくあろうと、私たちの闘志はくじけはしない、ということです」

それでもこれらの侵略者たちは、大砲と機甲部隊とを伴ってくるであろうと、彼女は警告した。それらの武器にたいしては「おそかれ早かれ、私たちの勇気は何の意味ももたなくなるでしょう。なぜなら、私たちは生き残ってはいないはずですから」

彼女は来て彼女は語り、アメリカのユダヤ人たちに侵略者の大砲に対抗するのに必要と思われる重火器を買うための、二千五百万から三千万ドルの援助を訴えた。

エルサレムにて、イスラエルの検問所でヨルダン川西岸から入っていくる誰かを待っている母子
写真=iStock.com/vichinterlang
※写真はイメージです

「失敗だったのか」と彼女が思った瞬間…

「同胞のみなさん」と彼女は最後にいった。「私たちは先のみじかい現在を生きているのです。このお金が即刻必要だと私が申し上げるその即刻は、来月のことではありません。二箇月以内に、ということでもない。それは、まさにいまなのです……」

――私たちの戦いをつづけるか否かを決定するのは、みなさまではありません。私たちは、戦います。パレスチナのユダヤ人集団が、エルサレムの大グラン・ググラン法官のまえに白旗を掲げることは、決してないでしょう……けれどみなさまは一つのことを、決定することができます。――勝利がわれわれのものか、それとも大法官のものとなるかを。

疲れ切って、ゴルダ・メイアーは椅子に坐りこんだ。沈黙が、聴衆の席を支配している。失敗だったのかと、一瞬彼女は思った。ところが次の瞬間に全聴衆が、男も女も起立し、万雷の拍手が爆発した。拍手が終り切らないうちに演壇には一群の代表たちが駆けよって来て、提供する金額をいいたてた。