自分は運がいいなと思う
合州国の非営利団体「ヤングアメリカンズ」が行う歌や踊りのワークショップと公演に参加し、子どもたちに「学校ではできない教育」を届けたいと考えるようになった白岩春奈さん(平商業高1年生)。最初に聞いたとき、こちらは彼女の高揚感を正しく理解できずにいた。謎が解けたのは、取材後のメールで白岩さんの部活動を教えてもらったときだ。
「部活は郷土芸能保存会です。いわきの郷土芸能である『じゃんがら』を、お祭りや老人ホームなどで披露しています」
冒頭で、「いわき」という地のバラバラぶり(きれいなことばで書けば「多様性」)を記したが、それは為政者側の視点だ。江戸時代からこの一帯では 腰に付けた締太鼓と鉦(かね、鉦鼓[しょうこ])を打ち鳴らしながら踊る「じゃんがら」が盛んに行われていた(「ぢゃんがら」とも書く)。源流は「泡斎念仏」と呼ばれた踊り念仏といわれ、江戸時代にいわき周辺で大流行、1671(寛文11)年には磐城平藩が禁止令を出すまでに至った。明治6年(1873)年にも磐前(いわさき)県(当時)が禁止令を出している。すなわち、それほどまでに高揚する祭をいわきの人たちは持っている。有力大名が統一支配していなくとも、人々の間には共有する風俗がある。江戸時代には老人が舞っていたという「じゃんがら」は、今のいわきでは、各地区の若者たちが主体となって行われている。白岩さんと「ヤングアメリカンズ」の距離は、最初から近かったのだ。
NPOやNGOで、小中学生対象に小中学校ではできないことをしたい。そういうことをできるようになるには、どういう進路が考えられますか。
「国際関係学部みたいな学部に入って、NGO論みたいなのを学べるコースで。じっさいには、そういうコースってどんな勉強するのか、わたしまだ、オープンキャンパスとか行ってないんで、はっきりわからないんですけど。興味があるので、2年ぐらいになったら、オープンキャンパスには絶対に行ってみようって思ってます」
白岩さんは、やりたい仕事をしているとき、どこに住んでいますか?
「そういう仕事だったら、日本中どこでも、世界中どこでも。自分の仕事がどういうものなのかは、まだはっきりとわからないんですけど、『いろんな子どもたちに教えたい』ってことは、はっきりとありますから、自分のことばが通じないところでも頑張りたいです。でも、老後は日本がいいです(笑)」
父方のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、父、母、小6の弟、小4の妹と一緒に白岩さんは暮らしている。お父さんはトラック運送業の整備士、お母さんは銀行のパート職員だ。親御さんは進路についてどう言っていますか。
「お父さんもお母さんも高校を出て就職してるので、わたしもそういう中で育ってきたんで、最初は就職でいいなとか思ってたんですけど、いろんな経験をしたり、いろんなスキルが身についていって『もっといろんなことを学びたい。高校で留学してみたい、やっぱり大学に行きたい』って思って。べつに親が悪いとは思わないんですけど、わたしが調べないと、やっぱり親もわかんないし、そこは不利かな。でも、わたし、自分は運がいいなと思うんです。経済的な面で余裕がないとか言われちゃってるけど、行くなとは言われてないし、自分の進路は応援してくれてるんで」
白岩さんが卒業した中学校は、小名浜地区の海の近くにある、いわき市立江名中学校。
「いわき生徒会長サミット会員でした。現在はシニア会員としても活動しています」
「いわき生徒会長サミット」は、2011(平成23)年から始まった、いわき市内44の中学校の生徒会長と前年卒業生のシニア会員で構成される活動のことだ。白岩さんが話してくれたヤングアメリカンズのいわき公演は、このサミットが主体となって行われている。将来のいわき市を担う(かもしれない)若いリーダーたちが、早い段階から横のつながりを持つ場所。サミットはそういう集まりとして機能している。
■いわき生徒会長サミット
http://www3.schoolweb.ne.jp/weblog/index.php?id=0740002
生徒会長サミットに参加する、ヤングアメリカンズを体験する、「TOMODACHI~」で3週間の合州国を体験する。白岩さんは能動的だ。だが同時にこちらは、そういう高校生が葛藤を抱える場面もこの取材の中で見てきた。白岩さん、こちらは今までの取材で「TOMODACHI~」から帰ってきて、日本での学校生活でギャップを感じたという話を何度か聞きました。合州国での3週間を一緒に過ごした仲間は前向きなのに、こっちは……というニュアンスの話です。白岩さんはそういうことを感じたことはありますか。
「ギャップは毎日感じてます。わたしは中学校3年生のときに、生徒会長サミットの活動で長崎に行ったんです。長崎でもいろんな経験を積んで、視野も広がって、スキルアップもできたと思うんですけど、帰って来たときに、ほかの生徒とかと、なんか、温度差みたいなものは感じて。いい経験をたくさんさせてもらっても、戻って来ると、先生とも生徒とも差があって。『TOMODACHI~』から帰ってきてからも、同じ気持ちは持ちました」
念のため言い添えておくと、白岩さんの口調に「上から目線」に該当するものはない。だが、葛藤はたしかに感じているとわかる。生徒会長であれ、経営者であれ、リーダーシップを執る側が持たざるを得ない「なぜ動かない?」という葛藤。白岩さんは今、その入口にいる。