子どもの能力を引き出すには、どうすればいいのか。脳科学者の黒川伊保子さんは「子どもの『イヤイヤ』も否定してはいけない。否定されると、ヒトは話すことをやめ、発想力に蓋をしてしまう。まずは『いいね』か『わかる』で受け止めてほしい」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、黒川伊保子『孫のトリセツ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

伸ばされた手を両手で包む人
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成功するチームには「心理的安全性」がある

ここ数年、企業の人事部で「心理的安全性」というキーワードが話題に上っている。

グーグルが4年にも及ぶ社内調査の結果、効果の出せるチームとそうでないチームの差はたった一つ、心理的安全性(Psychological safety)が確保できているか否かだ、と言い切ったからだ。

心理的安全性とは、「なんでもないちょっとしたことを無邪気にしゃべれる安心感」のこと。つまり、脳裏に浮かんだことを素直に口にしたとき、頭ごなしに否定したり、くだらないと決めつけたり、皮肉を言ったり、無視したりする人がチームにいないことである。

結論がなくてもいい、なんなら、その言葉が浮かんだ意図さえも把握できていなくていい。たとえば「さっき、駅の階段でつんのめって怖かったんです(別に落ちたわけじゃないけど)」とか「今朝、夢を見たんですよね(何の夢か覚えてないけど)」のような、オチも結論も対策もない話が抵抗なくできること――それが心理的安全性である。

日本では「風通しのいい職場」と解釈されたが…

数年前、グーグルがこのことを提唱したとき、日本の優良企業は、皆それをキャッチアップしたのだが、なかなか咀嚼そしゃくできなかったようだ。

天下のグーグルの、精鋭チームに必要な唯一の資質が、戦略力でも調査力でも開発力でも実行力でもなく、「なんでもしゃべれる安心感」だなんて……。世界を制覇した成果と心理的安全性がどうつながっているのか、それがまったく見えないからだ。

結局、「心理的安全性」を「風通しのいい職場」と解釈して、「風通しのいい職場に。ハラスメントをゼロに」というキャンペーンに代えて、お茶を濁している企業も少なくなかった。

そうはいっても、今さら「風通しのいい職場」なんていうことを、天下のグーグルが世界的に発表するだろうか。グーグルの提言の熱意と、「風通しのいい職場」という帰結のぬるさ。その温度差に、なんとも腑に落ちない、落ち着かない。それが、大方の日本の企業人の感覚だったようだ。

実際、ネットで「心理的安全性と、ぬるい会話をどう区別したらいいんだ?」という議論が交わされたりしている。