6月決定会合で再確認された日銀の限界

とはいえ、日銀は異次元緩和の修正を進める発言を繰り返してきた。YCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)の修正・再修正、撤廃、マイナス金利解除がこれにあたる。

今回の6月13日、14日に開かれた日銀の金融政策決定会合では、マーケットが円安防止のための「国債買いオペ減額」決定を期待していた。にもかかわらず日銀は、国債の買い入れの規模を減らす方針を決めたものの、「国債買い入れの減額にあたっては予見可能な形で丁寧に実施したい」と述べただけだった。

すなわち「超超超超超金融緩和政策」の変更を、ほぼ全くしなかったと言ってもよい。

マーケットは「日銀は国債購入を減らすことで円安進行防止を図る」と読んでいた。平時なら当然の分析だろう。しかしながら、日銀はほぼゼロ回答だった。マーケットは失望し、156円台だったドル/円は、一時158円まで上昇(=円安)した。

日銀通り
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急速な円安進行に慌てたのだろう。14日午後3時ごろに始まった植田総裁の記者会見では、決定会合後に発表された文書には無かった「減額する以上、相応の規模になると考えている」との言葉が加わった。「相応の規模」という言葉を、マーケットは「相当の」と解釈したようだ。

また「場合によっては利上げもする」との発言も加わった。「ハト派」と言える日銀の決定がマーケットを見て急に「タカ派」に変わったようにも思える。そこで一応円安進行スピードは減速した。

7月決定会合のハードルを自ら高くした

「国債買いオペ減額」の具体的な計画は、7月末の決定会合で決めるという。今後1年~2年程度の減額計画をまとめると、植田総裁は記者会見で明らかにしている。

このようなタカ派トーンへの変更で、日銀は自ら、7月以降の決定会合のハードルを極めて高くしてしまった。マーケットがかなりの政策変更を期待してしまったからだ。この期待に応えられないと「Xデイ」の引き金になる可能性は大いにある。「Xデイ」とは日本円の暴落、すなわち紙くず化である。

なぜハードルは極めて高くなったのか。なぜなら今回の「国債買いオペ減額」は“方針”の発表にすぎない。次回7月会合で、“計画”を発表する。そして“実施”は、先のまた先となる。6月会合での国債買いオペ減額実施を期待していたマーケットにとっては、空鉄砲を撃たれたに等しい。

植田総裁の記者会見での発言もあって、7月会合で「大砲」が撃ち込まれることをマーケットに期待させてしてしまった。特に外国人投資家に。不発に終わった場合の反動は今までの比較にならないほど大きいと思われる。

今後日銀はさらに難しい判断を迫られる。7月の決定会合では「円安が進まないほどの大きな減額」(=円安防止には減額幅が大きいほど長期金利が上昇するので望ましい)と「国債が暴落(=金利上昇)しない程度の小さな減額幅」という相反する条件を満たす方程式の解を見つけなければならない。これは非常に難しい。最適解が見つからず、円も国債も、ともに暴落する可能性は高い。これによって株の暴落も始まれば目も当てられない。

マーケットの円安防止の期待を考えると、再度、日銀が空鉄砲を打つ選択肢はあり得ないように思う。日銀は追い詰められている。