市場参加者の意見を聞いても「最適解」は見つからない
この最適解を見つけるために日銀は、市場参加者の意見を1カ月かけて聞くという。市場参加者の意見を聞けば、最適解が見つかるのか?
私の長いマーケット経験からして、そんなに甘いものではない。
日銀がもし「毎月1兆円の買いオペを減額すれば、どのくらいまで長期金利は上昇すると思いますか?」と聞いた時、マーケット参加者は「1.5%くらいだと思います」と答えたとしよう。それを信じて行動した人は、生き馬の目を抜くと言われるマーケットで、最初に目を抜かれ、食べられてしまうだろう。
この「1.5%くらいだと思います」との回答は「1.5%くらいだと思いますから、皆さん買ってくださいね。皆さんが買ってくれて暴落が止まったら、私も買いに入ります」という意味でしかない。
国債発行額の半分以上を保有している日銀は、国債市場では池の中のクジラだ。その日銀が国債購入額を減らすなら誰も大暴落するまで、その巨大購入者の穴を埋めようなどと思わない。それがマーケットだ。どこの水準で買いが入るのか、などという理論はない。
池の中のクジラに、サラリーマン・トレーダーはかなわない
日本国債市場には、ロクイチ国債暴落(1980年)、タテホ・ショック(1987年)、資金運用部ショック(1998年)など、今まで嫌というほど暴落の事例がある。
国債先物市場では、朝一番に値幅制限まで気配値が下落する。そこで張り付き、取引が成立しない日が連日続いた。そのようなマーケットで買い向かうのはサラリーマン・トレーダーには無理だ。倒産の恐怖に打ち勝つようなガッツのある人間にしかできない。
損が尋常ならないほどに日々膨む中で追加の新規の買いを入れる恐怖は、こうしたマーケットを経験した人にしかわからないだろう。
私は現役時代、部下に「一流トレーダーになるには血反吐を3回吐かなければならない」と言っていた。最近20年ほどはマーケットに激動が無かったから、今の現役トレーダーには、血反吐を1度も吐いたことのない人が多いと思う。相場が急落し始めたら、右顧左眄するだけで立ち向かう人などいないと私は思っている。
誰が国債を買い支えるのか
そもそも日銀が「国債買いオペ減額」をしたら、誰がその穴を埋めるのか。
6月21日付け日経新聞朝刊「国債買い手、銀行に照準 財務省、発行計画見直しへ 保有者の多様化も必須」には、「研究会のこれまでの議論では三菱UFJ銀行から、預金取扱金融機関が国債を購入する余力は日銀が保有する分の3割前後(22年末時点)との試算を紹介する資料も示された」とある。
日銀保有のたった3割しか吸収できず、銀行が全てを引き受けられるはずがない。
それ以上に「購入余力がある」と「実際に買う」は全く違うのだ。
6月22日付け日経新聞朝刊「国債の年限短く、購入促す 財務省提言 日銀の買い入れ減額に対応 金利変動リスクを抑制」にあるように、「買い入れはゼロではないが、経済合理性とポートフォリオ管理で(買い入れ額を)判断する」と述べた大手銀行幹部のような見解が常識的であると思う。