県専門部会長の「独り舞台」

10月26日に静岡市で開かれた関東地方知事会議で、川勝氏は長崎知事に直接「あいさつ」した。長崎知事も一定の理解を示したが、この問題の根が深いことを長崎知事は理解していなかった。

川勝前知事の言い掛かりで始まった山梨県の工事ストップ問題
筆者撮影
川勝前知事の言い掛かりで始まった山梨県の工事ストップ問題

というのも、その後静岡県は、山梨県内のリニアトンネル掘削工事から調査ボーリングに問題を飛躍させてしまったからだ。

その立役者となったのが、県地質構造・水資源専門部会の森下祐一・部会長である。

2022年12月11日、「大井川流域の10市町首長と県地質構造・水資源専門部会委員との意見交換会」が初めて開催された。静岡県は流域の首長たちを味方につけることで、JR東海を従わせようとした。

もともとトンネル内に圧力が掛かるから静岡県の水が引っ張られるとする主張自体が難癖でしかなく、さらに「調査ボーリングをやめろ」の主張にいたっては、ほとんどの首長は理解できなかった。

意見交換会は進行役を務めた森下部会長の独り舞台となった。

会議の冒頭から、森下部会長は、「山梨県の高速長尺先進ボーリングをやめろ」だけを標的にした。

以下が森下部会長の主な発言である。

「JR東海は『調査ボーリング』と言っているが、目的は全く異なる。現在の不確実性を確実にする科学的データは得られない」
「この調査ボーリングにより静岡県の地下水はどんどん抜けてしまう」
「山梨工区の先進坑が現在の位置で停止したとしても、静岡工区の工事を始めてから再開すれば十分に間に合う。静岡県の地下水が県外に流出するリスクを冒してまで県境付近で工事を進める意義はない」
「もし、それでも調査ボーリングをしたいということであれば、工事前の水抜きを目的としている」

強引な会議運営にもJR東海は引き下がらず

そんな中で、島田市の染谷絹代市長ら複数の首長が「調査ボーリングはやる価値がある」などと森下部会長に反論した。

これに対して、森下部会長は「調査ボーリングはいまやる必要はない。その方向性で、これから専門部会で、ぜひその問題に注力していきたい」などと強引に専門部会の議題とすることにしてしまった。

この意見交換会を受けた形で、山梨県内の調査ボーリングを議題とする地質構造・水資源専門部会が2023年1月25日に開かれた。

そこで、森下部会長が「調査ボーリングで静岡県の地下水が抜けてしまうリスクを冒してまで県境付近で工事を進める意義はない」と発言し、JR東海に「山梨県の調査ボーリングをやめろ」と求めた。

森下部会長はあまりにも強引な会議運営を行ったが、流域首長たちと同様に、JR東海を従わせることはできなかった。