総額12億ドルかけて1200本の井戸を掘る
エネルギー本部ガス事業部の上砂卓也氏は、米国から届くシェールガスの採掘レポートを、いち早くチェックするのが日課だ。シェールガスのガス井戸は掘って何も出てこないことはないが、井戸ごとの埋蔵量に多寡がある。井戸1本の採掘資金は約3億~5億円。埋蔵量の少ない井戸だと投資資金を回収できない恐れもある。資源開発ビジネスの怖さだが、上砂氏はレポート結果には過度に反応しないようこころがけているという。
「今回のマーセラスのプロジェクトでは、約10年かけて1200本の井戸を掘る予定。1本1本は大切ですが一喜一憂していたら身が持ちません」
たしかに今回は大型の案件だ。住友商事は2009年12月、テキサス州バーネット・シェール・フィールドの開発プロジェクトに参画。日本企業初のシェールガス開発への参入として注目を集め、同社は持分総開発費用に1億~1億5000万ドルを費やした。続いて10年9月、ペンシルヴァニア州マーセラスの開発への参画も発表。こちらの持分総開発費用は12億ドルに達する見込みだ。
いま世界中でシェールガス開発に莫大な資金が注ぎ込まれている。シェールガスは頁岩(シェール)層に含有される非在来型天然ガスの1種で、世界中に広く貯留されているが、採掘に手間がかかるため長らく注目されてこなかった。しかし掘削技術の飛躍的な進歩でコストが低下し、00年代から商業開発が本格化。北米を中心に世界中で開発が始まっている。このまま生産量が増え続ければ世界のエネルギー地図は変わり、国際政治にも大きな影響が出る。すでに“シェールガス革命”とも呼ばれるが、その表現は決して大げさではないのだ。
こうした流れの中、日本の総合商社各社も権益獲得に動いた。そしていち早く開発参画に成功したのが、住友商事の上砂氏が率いるチームだった。