貧血を寝不足と誤認するべからず

最も恐ろしいがんとされているのが「すい臓がん」です。食べ物を消化するために「すい液」を分泌したり、血糖値を下げる「インスリン」をつくったりしているすい臓ですが、がんになってもなかなか症状が出ず、明確な症状が出る頃には手遅れとなるケースが多いのです。がんと診断されてから5年間の生存率は8.9%で、がんのなかで最も低くなっています。

ただし、サインがないわけではありません。背中やお腹に痛みが表れる場合があります。「急性すい炎」だと、腹部から背中にかけて突き抜けるような激痛が走って、立っていられないような状態になります。これに対してすい臓がんの痛みは、急性すい炎ほどではなく、重くどんよりした痛みを感じ、食欲の不振や便通の不安定さなどを伴うことが特徴です。すい臓は腎臓と同じように、胃の裏側に位置する「後腹膜臓器こうふくまくぞうき」です。その後腹膜臓器から発せられるサインの共通点が、背中に異常な痛みを感じることなのです。

一方、早期に発見できて、がんが筋肉の層まででとどまっている「ステージI」であれば、診断後5年間の生存率が90%を超えているのが「大腸がん」です。その大腸がんのサインとして見過ごせないのが、めまいや立ちくらみです。そもそも、めまいや立ちくらみは、「内耳」の異常によって起き、その原因の一つで大腸がんと関係しているのが血流の不足、つまり「貧血」なのです。

がんは自分に血液から栄養を送るため「新生血管」と呼ばれるものをつくります。しかし、この新生血管は通常の血管よりももろく、便が大腸を通過する際にこすれることで、その壁が破れて便に血が混じって赤い色の「血便」になります。そして、体の外へ血便の形でどんどん血液が出ていき、貧血を引き起こします。血中の「ヘモグロビン」の濃度が、男性で13g/dl以下、女性で11g/dl以下で貧血と診断されます。大腸がんの患者さんではわずか4g/dlしかなく、緊急輸血されたケースもあります。

血便やしこりなど異変が起きていないか

同じ血便でも「胃がん」によるものは「黒色便」といって黒色です。健康であれば、バナナと同じ太さで、黄褐色の便になります。でも、この黒色便はコールタールのようにねっとりとした黒い色の便になることから、「タール便」という別名までついています。

胃がんになると、大腸がんのときと同じように新生血管ができて、摂った食べ物がこすれることで出血します。それから小腸、大腸、直腸、肛門を経て便として排出されるまでの間に、血液中の鉄分が「酸化」して黒くなるのです。イカ墨のパスタを食べたり、鉄分を補う薬を服用したりしていないのに、黒色便が続くようなら、胃がんのサインと考えたほうがいいでしょう。

また、みぞおちのあたりがキリキリと痛む、もしくはズキズキするような場合も、胃に異常が起きている公算大です。そうしたみぞおちの痛みを「心窩部痛しんかぶつう」といい、そのみぞおちのあたりに胃は位置しています。暴飲暴食、ストレスなどによる「胃炎」や「逆流性食道炎」、もしくは「胃潰瘍」などが原因として考えられますが、胃がんの恐れもあります。胃がんは進行すると、胃痛の症状が出てくるからです。

もう一つ、胃がんのサインに「左肩のしこり」があります。しこりができる場所は、左肩の鎖骨のくぼみの内側にある「左鎖骨上窩じょうかリンパ節」と呼ばれるところです。大静脈にリンパ管が合流する静脈角の近くにあり、胃でできたがんが転移しやすいのです。カチカチに硬かったり、動かそうとしても動かなかったり、痛みを伴っている場合は注意しましょう。

気をつけたい「がんの予兆」