「日常生活でよくある症状」と近いがんのサイン

寝不足などで、顔がむくんでしまった経験のある人が大勢いるはずです。でも、「日常生活でよくあること」と高をくくっていると、後でほぞをかむことになるかもしれません。顔のむくみと肺がんは関係があるからです。特に、塩分や水分の摂りすぎでは説明できないくらい急に顔がパンパンにむくんだりしたら、肺がんが疑われます。

実は、肺がんによる顔のむくみは、右の肺にがんができたときにだけ発生します。体内には心臓から血液を送り出す「大動脈」と、逆に心臓へ血液を戻す「大静脈」があります。この大事な血管がまっすぐ体を貫くように走っていて、大動脈は体の左側、大静脈は体の右側に位置しています。

右の肺にできたがんは、自分の“領土”を広げるために近くの「リンパ節」に飛び移り、転移をしたり、がん自体が大きくなったりします。その結果、体の右側に位置する大静脈が圧迫され、心臓に戻ろうとする血液が“大渋滞”を起こして、顔がむくんでしまうのです。これを医学用語で「上大静脈症候群」といいます。この段階では、がんの進行がかなり進んでいて、息苦しさを感じることが多くなります。

また、加齢によってまぶたが垂れ、視界が狭くなることがあります。「寝不足かな」で片付けないようにしましょう。まぶたの垂れを「眼瞼下垂がんけんかすい」といいます。年を取れば仕方がないものの、肺がんに侵された場合も、この眼瞼下垂の症状がサインとして出てきます。

肺上部の「肺尖はいせん部」にできるがんは「パンコースト腫瘍」と呼ばれ、近くを走る神経の集まりを侵食し、神経線維を分断してしまいます。そのため、筋肉がまぶたを支えられなくなって、眼瞼下垂が起きてしまうわけです。肺がんの場合で特徴的なのが、分断された神経線維と同じ側のまぶただけが垂れ下がってくることです。

そのパンコースト腫瘍からの転移で、神経の“司令塔”が機能不全に陥り、肩や腕、手に痛みを感じたり、しびれが出たりといった、首のヘルニアに非常に似通った症状も出現することがあります。このパターンの肺がんの怖いところは、肺の上部にできるため、X

線撮影しても鎖骨と重なってしまい、健康診断などでも見逃されやすいことです。

また、肺がんの初期症状のサインに、「指が太くなる」ことがあります。具体的には「指の先がまんまる」になっている状態で、「ばち指」といいます。先端部が丸くふくらんでいる太鼓のバチに似ていることから、そう名付けられたのです。肺がんとばち指との因果関係はまだ解明されていませんが、肺がんの患者さんの約17%がばち指だったエビデンスがあります。ばち指のチェックは簡単で、両手の人差し指を爪側で合わせて、真ん中に隙間ができないようなら要注意です。