ただし、すべての仕事、すべてのメンバーについてコントロールを緩めるというわけではない。仕事のリスクレベル、相手への信頼度レベルによっては、強いコントロールが必要な場合がある。失敗が許されない仕事、経験不足の新人などには、コントロールが強まって当然である。あくまでも通常のレベルで、解放をめざすのがリーダーシップである。
本当のエンパワーメントを進めるためには、ボイスの発見や全人格型パラダイムが前提となる。そしてリーダーが信頼を築き、意義を見出し、組織を整えるという手順を踏んでいないかぎり、いきなりエンパワーメントを実行するのは不可能といってよい。かつてエンパワーメントに失敗した組織が多くあるのもそのためである。 エンパワーメントが進んだ組織では、リーダーは仕事の指示や命令を下すことがなく、自分から報告や連絡を求めることもない。その代わり、ビジョンや各人のボイスを確認したり、成果の検証をしたりするための会話が活発に行われ、メンバーへの声かけも頻繁にある(図17)。
成功したチームは、メンバーが相互に補い合う関係が成り立っている。個々のメンバーにとっては、自分の長所を伸ばし、短所を補ってもらえるという環境である。このようなチームをつくりあげるリーダーは、たいてい成熟した人格をもち、自信と勇気にあふれているものである。リーダーの多くが、自分に賛同する人ばかりで周囲を固めてしまうのとは対照的に、多様な人材を集め、その人たちの才能と情熱を引き出そうとする。
いまやテクノロジーとマーケットは世界中に開かれている。グローバルに競争するうえで、産業時代のように効率を求めすぎると効果を失ってしまう。場合によっては、優秀な人材までも失うことになる。グローバルマーケットで戦うには、人々がもっている力をすべて融合させ、相互に補わなければ勝利することはできない。