米中のデカップリングがメキシコに恩恵をもたらす

また、メキシコ系の人たちは米国内において一定規模のコミュニティを有している。そのため、米国において強いコネクションを持っており、ビジネスがしやすい環境にあるのも事実だ。

そのうえ、前述したように米国と地続きなので、交易品を船舶で運ぶ必要もない。こうした経済面における米国とのつながりの強さは、メキシコ経済にとって大きな強みになるだろう。

また、米中のデカップリングが行われた場合でも、メキシコにとっては経済的にむしろポジティブな材料が生じてくる。というのも、中国が米国との直接的な貿易取引が困難な状況になった場合は、迂回先を使った貿易を行うからだ。

その迂回先として、メキシコが選ばれる可能性が非常に高い。つまり米国との直接貿易ができなくても、メキシコが中国との貿易を禁止しない限りは、メキシコが輸入した米国製品、素材、原材料などを、中国に輸出することもできるし、逆もしかりである。また、中国企業がメキシコに工場を建てて米国の対中関税を避けることも可能である。この迂回先には、日本が含まれる可能性も当然のことながらある。

メキシコの弱点「麻薬カルテル」の行方

昨今、グローバルサプライチェーンの見直しによって、米国の製造企業が生産拠点を米国国内に引き戻そうとする動きがあるが、ここでの問題は米国でモノを製造すると、労働コストがきわめて高くなる、ということだ。

さらに言うと、米国国内でモノをつくる場合、環境配慮をはじめとしてさまざまな厳しい規制がつきまとう。その点においても、規制が緩いメキシコに生産拠点を設けるという可能性が、高まってくると思われる。

唯一、メキシコの弱点は、これまで麻薬カルテルの力が非常に強かったことだった。

かつて中南米の麻薬カルテルといえば、コロンビアのメデジン・カルテルと、カリ・カルテルが二大カルテルだったが、米国のDEA(麻薬取締局)やコロンビア政府によって解体されると、今度はメキシコの麻薬カルテルが台頭してきた。

メキシコ国内では麻薬戦争というに相応しいような状況となり、イメージが悪化。それがメキシコへの企業進出を阻んできたところはあるが、ここに来て経済的に豊かになる中で、麻薬や密輸といった違法なビジネスの影響力が徐々に削がれつつある。