この特例は、相続後に10カ月間は住まなければならないという条件はありますが、実は、相続前に同居する期間には制限がありません。極論を言うと、法律上は亡くなる前日でも同居していれば特例を適用できるということになります。

実際に私が過去に申告したお客様で、亡くなる直前の2カ月間同居していただけで、小規模宅地の特例が認められたケースがあります。その方は実際に同居していましたので、住民票も変更していましたが、これだけだと決め手に欠けます。このお客様の場合、決め手は引っ越し業者からの領収書によって大型家具の搬入日が分かったことです。生前の同居の実態が証明できたことで、無事に特例を使って数百万円節税できました。

別居家族でも80%オフになる「家なき子特例」

小規模宅地の特例は、基本は配偶者か同居親族が相続することを前提としていますが、実は、賃貸暮らしを3年以上続けている家族が相続した場合も特例を受けられます。

大田貴広『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)
大田貴広『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)

先ほど説明した通りこの特例は、相続税を払うために自宅を売却して、住む所がなくならずに済むように作られた優遇措置のため、持ち家がない家族の場合にも同様の取り扱いとなっています。このように小規模宅地の特例を別居親族が使えることを、俗に「家なき子特例」などと呼ぶことがあります。

ただし、家なき子特例は、配偶者か同居している家族が他にいない場合に初めて使えます。配偶者がいないということは、いわゆる二次相続の際にしか使えないということになります。よって二次相続において、実家を離れた子供の中で賃貸暮らしを3年以上続けている家族がいた場合、その方が家なき子特例を利用して、自宅を相続すると相続税が大きく軽減されます。

ここでいう賃貸暮らしは、第三者の家主から家を借りている場合に限られ、一定の親族が所有している物件を借りている場合は当てはまりませんのでご注意ください。

また家なき子特例の場合も、相続後10カ月間は所有していなければ使えません。よく「親の実家に引っ越して住まなければいけませんか」と聞かれることがありますが、結論としては、引っ越しをしなくても問題ありません。家なき子特例は別居が前提ですので、10カ月間所有さえしていれば、住まなくてもいいのです。